このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
「ってわけで、ナタリアさん、女性役お願いします!」
「話は聞いたけど……聞いたうえで言わせて。意味がわからないわ。なんなの? 女性のあしらい方をリベルト様に覚えさせるって」
 リベルトの部屋にナタリアを招き、まずは彼女の協力のもと、リベルトの女性への接し方を改善させることにした。もちろん仕事人間のリベルトのタイミングを見計らい、仕事がひと段落ついた頃合いで呼び出している。
「そのままです。リベルト様、モテるのにあまりに冷たい態度をとるものだから、反感を買うらしいんですよ」
「それは大いに想像つくけど……」
「昨日もアレン副団長に逆恨みされて、今後も似たようなことがあるかもしれません。なんなら女性に刺される可能性もあります」
「スーパーエリートのリベルト様を刺せたとしたら、その女性が凄すぎるけどね」
「と、とにかく! 協力してください。今度なにか奢りますから」
「え、本当? じゃあ休日に王都の大人気スイーツ店付き合ってちょうだい」
 スイーツを奢るのと引き換えに、無事ナタリアが協力してくれることに。ようやく話がまとまって、まずはリベルトとナタリアを向かい合わせに立たせる。
「最初は普段、リベルト様がどのように女性に接しているかを実際にチェックさせてもらいます。ナタリアさん、リベルト様を口説く女性の役をしてください。それに対して、リベルト様は普段通りに返してくださいね」
「わかった」
「わかったわ」
 リベルトのナタリアの声が重なる。
「では、私が手を叩いたらスタートです」
 まるで芝居の監督にでもなったような気分だ。そう思いながら、フィリスはぱちんと手を叩いた。
「副団長。私、ずっと前から副団長のことが気になっていたんですぅ。よかったら今度、デートに行ってくれませんかぁ?」
 ナタリアはいつもより甘い声を出し、わざとらしく語尾を伸ばしている。無邪気に首をかしげて瞳を輝かせるナタリアは、思ったよりも演技派だ。無駄にクオリティの高いぶりっ子演技を見て、フィリスはふっと笑ってしまった。
「……デート?」
「はい。男女が日時を決めて会うことですよ」
(……デートの意味くらい、リベルト様も知っていると思うけれど)
 というか、これまでこんな感じで誘われた経験が山ほどあるはずだ。
「なんのために?」
「はい?」
「俺と君がデートをして、なんの意味がある? 俺は無意味なことに時間を割きたくない」
 可愛い表情を保っていたナタリアの頬が、苛立ちを抑えきれずに引き攣る。
「意味って……デートしたら、意味も生まれるかもしれませんよ。行く前から決めつけなくたって……」
「そもそも、俺は君とデートしたいと思っていない」
「……フィリス、そろそろ演技が続けられそうにないわ」
 ピクピクと表情筋を動かして、ナタリアは必死に震える拳をもう片方の手で押さえつける。もうちょっと彼女のぶりっ子を見てみたい気持ちもあったが、本当に拳が飛ぶ前にやめておきたい。
 始まりと同じように、フィリスは手を叩いて終了を告げる。
「ナタリアさん、今のリベルト様の返しはどうでした?」
 聞くまでもないが、念のため確認することにした。
「最低最悪。勇気を出して誘ったのに、乙女心を踏みにじられた気分だわ。こんな断られ方したらトラウマ級よ。私が実際にこんなこと言われたら、副団長は最低男って言いふらしちゃいそう」
「だそうです。リベルト様。後にトラブルにならないために、もっと断り方を考えましょう。言い方を少し変えるだけでいいんです」
 フィリスが説得を試みるも、今回はあまりリベルトの反応がよくない。乗り気でないのか、納得がいかないのか……はたまた、そのどちらともか。
「なにが悪いかわからない。可能性がないものをある風に装うことが、本当にトラブルに繋がらないのか? 俺からすると、期待を持たせるほうが後々面倒だと思う」
「リベルト様の仰っていることはよくわかります。私も期待を持たせるべきではないと思いますが、言い方の問題ですね。ちょっと冷たすぎるかもしれません」
「ちょっとどころじゃないわ。大分よ、大分!」
 やんわりと指摘するフィリスに背後から、ナタリアが野次を飛ばした。
「例えばデートを断りたいだけなら、わざわざデートの意味を問わなくていいんです。ごめんなさい。行けません。それだけ伝えればじゅうぶんです」
「どうして? なんで行けないの? って、食い下がってくる女性もいるだろう」
 まるで過去にそういった女性がいたような物言いだ。きっと実体験なのだろう。
「うーん。その場合はなんて返事するのがいいんだろう。……もう一回ロールプレイをして、ベストな答えを探してみましょうか!」
 アルバやエルマーに聞いてみるのも手だが、まずは自分たちで考えてみる。
「私、もう誘い役は演技でもこりごり。さっきので胸を抉られたわ。次はフィリスがやってみたらどう?」
「え、私?」
「フィリスなら、リベルト様の塩対応に耐久性があるでしょう。なんせ、世話係を続けられているんだから」
 塩対応への耐久性は、リベルトに出会う前から培われていたものだ。そのため、フィリスはなにを言われてもたいして傷つきはしない。一般的な意見を聞くためにナタリアに協力を仰いだが、本人が嫌なら仕方がない。
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