このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
「お前らの家に金が入ってるなんて……聞いてないぞ、そんなの……!」
「それはそうでしょう。言っていませんから」
いっさいの関わりを断ったのは、ラウルのほうからだ。没落しかけた家にやっとツキが回って来たのを、いちいち報告する理由がない。
「これからはラウル様が一生懸命、農民と力を合わせて作物を育ててくださいね」
「ふざけるな! お前とて知っているくせに! あいつらは作物や花が枯れたって、お前がなんとかすると思っている! そのせいで腑抜けてしまい、きちんと仕事をしないんだ!」
「それを働かせるのが領主の仕事ではありませんか。それに、先に腑抜けたのはラウル様でしょう。領主が適当しているから、こんな事態になってしまうんです。なめられているのなら、ちゃんと働かなければ追い出すくらいの威厳を見せつけないと……」
嘆いてばかりのラウルに、フィリスは苦言を呈する。
「してるけど、あいつら言うこと聞かないんだよ。出て行かれたら、税金をもらえなくなってこっちが困るだけだ……!」
愚痴ばかり垂れるラウルを見ていると、フィリスの心まで疲弊してくる。
都合のいい言葉を並べて復縁を申し込みながら、結局は自分のことしか考えていない。魔法もあれだけ馬鹿にしておいて一言も謝らず、それなのにその魔法を欲しいがためにまたフィリスを手に入れようとするなんて馬鹿げた話だ。
「フィリス。頼むよ。悪いようにはしない。お前が僕の言うことを聞いてくれるなら、次はちゃんと女として愛してやるさ」
「……結構です。お引き取りください」
誰がラウルからの嘘まみれの愛に魅力を感じるのだろうか。愛されなかったことに不服を抱いていると勘違いされているなら、それは大きな間違いである。フィリスは一度だって、ラウルの愛を欲したことはない。大好きな家族のために、冷え切った婚約関係を続けようと努力しただけ。
「お前、案外頑固だな。もっと聞き分けのいいやつかと思っていたのに……実に残念だ」
フィリスなら喜んで復縁を受け入れると思っていたのか、ラウルは思い通りにいかない現状に静かな怒りを見せた。
一歩、また一歩と、ラウルがゆっくりと距離を詰めてくる。後ずさろうにも、人がいて動けない。
他人からすると滑稽な復縁話も、クラシックの音楽と喧騒によって誰の耳にも入っていない。
「……僕の言うことが聞けないなら、またお前の家を魔物に襲わせてもいいんだぞ」
耳元に寄せられる唇から発せられた低音は、フィリスの目を大きく見開かせる。
はっと顔を上げると、ニタニタと憎たらしい笑顔を浮かべ、ラウルがこちらの反応を楽しんでいるように見えた。
「まさか……ワイバーンはあなたが……?」
「知っているかフィリス。社交場ではな、いろんな出会いがあるんだ。金を払えばなんでもやってくれる、国の組織に属さない傭兵とか――そういったやつとの出会いもな」
「なんてことを……! もし屋敷が襲われたら、どうなっていたか……!」
「そうなればお前は僕に頼るしかないだろう。それにしても惜しかった。成功していれば、こんな脅しをしなくて済んだのに」
フィリスの魔法が使えると知ったら、なんとしてでも手に入れようとする。そこまで狡猾な男とは思ってもいなかった。
「下手をすれば命にも関わっていたのに……」
「大袈裟だな。ワイバーンは頭が悪い魔物だ。せいぜい建物を壊すとか、そのくらいの被害で済んだだろう」
「あなたは実際に見ていないから、そんな軽口が叩けるんです! ……信じられない。私、二度とあなたの顔も見たくありません!」
さっきの口ぶりからして、誰かに依頼して魔物を屋敷の付近によこしたのだろう。自分は魔物と対峙もしていないくせに、あまりにも考えが軽率すぎる。
「そうか。それは困ったな。……なにかべつのやり方で、お前に言うことを聞かせるしか……。たとえばここでキスをして、既成事実でも作ってしまうか?」
「や、やめてください……!」
強引に顎を掴まれて、フィリスは必死に顔を背けようとする。
本気か冗談かわからない。ただひとつ確信できるのは、ラウルがフィリスを弄び、楽しんでいるということだけ。
交わうことを強要された瞳で、ラウルを思い切り睨みつける。もし唇を重ねてきたら、思い切り噛みついてやる。
その覚悟を決めたそのとき、ぐいっと後ろから腰を引き寄せられ、温かなぬくもりに包まれた。その拍子に不愉快な手も離れていく。なにが起きたかわからず、フィリスは一連の流れが全部スローモーションに見えた。
「フィリス」
「リ、リベルト様……!?」
背後から聞こえる声は、フィリスに安心感を与えたが、どこか怒っているように聞こえた。
「俺以外の男と距離が近すぎないか。心臓が止まるかと思った」
「え、私、今怒られてます?」
「ああ。……ん? もしや、これも試し行為だったのか?」
リベルトはひとりでよくわからないことをぼやいている。その間も、腰を抱く手の力は弱まらない。
「この男は何者なんだ。知り合いか?」
リベルトがラウルをじっと睨みつける。
「はい。……元婚約者の、ラウル・クレア伯爵令息です」
「元婚約者……へぇ。こいつが」
「お、お前こそ何者なんだ」
物凄い眼力で睨まれて、たじろぎながらもラウルが言い返した。
「リベルト・ノールズ。魔法騎士団の副団長だ」
「副団長!? しかも、エリートの魔法騎士団だって……!? なぜフィリスがそんなお方と……」
ラウルの顔色がおもしろいくらいみるみると曇る。フィリスにちょっかいを出す男などたかが知れていると、リベルトを軽んじていたに違いない。
「なんだっていいだろう。君に関係ない。それで、フィリスになんの用だ?」
「それを言うなら、僕だってあなたとはなんの関係もありませんので、教えません」
都合が悪くなったラウルが、この場から逃げようとしているのをフィリスは察する。
「いいえ。おふたりは間接的に関係ありますよ。事件を起こした犯人と、解決に導いた先導者っていう」
「おいフィリス、適当なことを抜かすな」
「……どういうことだ?」
後ろから腰を抱く手がするりと離れ、リベルトはフィリスの隣に立った。
「それはそうでしょう。言っていませんから」
いっさいの関わりを断ったのは、ラウルのほうからだ。没落しかけた家にやっとツキが回って来たのを、いちいち報告する理由がない。
「これからはラウル様が一生懸命、農民と力を合わせて作物を育ててくださいね」
「ふざけるな! お前とて知っているくせに! あいつらは作物や花が枯れたって、お前がなんとかすると思っている! そのせいで腑抜けてしまい、きちんと仕事をしないんだ!」
「それを働かせるのが領主の仕事ではありませんか。それに、先に腑抜けたのはラウル様でしょう。領主が適当しているから、こんな事態になってしまうんです。なめられているのなら、ちゃんと働かなければ追い出すくらいの威厳を見せつけないと……」
嘆いてばかりのラウルに、フィリスは苦言を呈する。
「してるけど、あいつら言うこと聞かないんだよ。出て行かれたら、税金をもらえなくなってこっちが困るだけだ……!」
愚痴ばかり垂れるラウルを見ていると、フィリスの心まで疲弊してくる。
都合のいい言葉を並べて復縁を申し込みながら、結局は自分のことしか考えていない。魔法もあれだけ馬鹿にしておいて一言も謝らず、それなのにその魔法を欲しいがためにまたフィリスを手に入れようとするなんて馬鹿げた話だ。
「フィリス。頼むよ。悪いようにはしない。お前が僕の言うことを聞いてくれるなら、次はちゃんと女として愛してやるさ」
「……結構です。お引き取りください」
誰がラウルからの嘘まみれの愛に魅力を感じるのだろうか。愛されなかったことに不服を抱いていると勘違いされているなら、それは大きな間違いである。フィリスは一度だって、ラウルの愛を欲したことはない。大好きな家族のために、冷え切った婚約関係を続けようと努力しただけ。
「お前、案外頑固だな。もっと聞き分けのいいやつかと思っていたのに……実に残念だ」
フィリスなら喜んで復縁を受け入れると思っていたのか、ラウルは思い通りにいかない現状に静かな怒りを見せた。
一歩、また一歩と、ラウルがゆっくりと距離を詰めてくる。後ずさろうにも、人がいて動けない。
他人からすると滑稽な復縁話も、クラシックの音楽と喧騒によって誰の耳にも入っていない。
「……僕の言うことが聞けないなら、またお前の家を魔物に襲わせてもいいんだぞ」
耳元に寄せられる唇から発せられた低音は、フィリスの目を大きく見開かせる。
はっと顔を上げると、ニタニタと憎たらしい笑顔を浮かべ、ラウルがこちらの反応を楽しんでいるように見えた。
「まさか……ワイバーンはあなたが……?」
「知っているかフィリス。社交場ではな、いろんな出会いがあるんだ。金を払えばなんでもやってくれる、国の組織に属さない傭兵とか――そういったやつとの出会いもな」
「なんてことを……! もし屋敷が襲われたら、どうなっていたか……!」
「そうなればお前は僕に頼るしかないだろう。それにしても惜しかった。成功していれば、こんな脅しをしなくて済んだのに」
フィリスの魔法が使えると知ったら、なんとしてでも手に入れようとする。そこまで狡猾な男とは思ってもいなかった。
「下手をすれば命にも関わっていたのに……」
「大袈裟だな。ワイバーンは頭が悪い魔物だ。せいぜい建物を壊すとか、そのくらいの被害で済んだだろう」
「あなたは実際に見ていないから、そんな軽口が叩けるんです! ……信じられない。私、二度とあなたの顔も見たくありません!」
さっきの口ぶりからして、誰かに依頼して魔物を屋敷の付近によこしたのだろう。自分は魔物と対峙もしていないくせに、あまりにも考えが軽率すぎる。
「そうか。それは困ったな。……なにかべつのやり方で、お前に言うことを聞かせるしか……。たとえばここでキスをして、既成事実でも作ってしまうか?」
「や、やめてください……!」
強引に顎を掴まれて、フィリスは必死に顔を背けようとする。
本気か冗談かわからない。ただひとつ確信できるのは、ラウルがフィリスを弄び、楽しんでいるということだけ。
交わうことを強要された瞳で、ラウルを思い切り睨みつける。もし唇を重ねてきたら、思い切り噛みついてやる。
その覚悟を決めたそのとき、ぐいっと後ろから腰を引き寄せられ、温かなぬくもりに包まれた。その拍子に不愉快な手も離れていく。なにが起きたかわからず、フィリスは一連の流れが全部スローモーションに見えた。
「フィリス」
「リ、リベルト様……!?」
背後から聞こえる声は、フィリスに安心感を与えたが、どこか怒っているように聞こえた。
「俺以外の男と距離が近すぎないか。心臓が止まるかと思った」
「え、私、今怒られてます?」
「ああ。……ん? もしや、これも試し行為だったのか?」
リベルトはひとりでよくわからないことをぼやいている。その間も、腰を抱く手の力は弱まらない。
「この男は何者なんだ。知り合いか?」
リベルトがラウルをじっと睨みつける。
「はい。……元婚約者の、ラウル・クレア伯爵令息です」
「元婚約者……へぇ。こいつが」
「お、お前こそ何者なんだ」
物凄い眼力で睨まれて、たじろぎながらもラウルが言い返した。
「リベルト・ノールズ。魔法騎士団の副団長だ」
「副団長!? しかも、エリートの魔法騎士団だって……!? なぜフィリスがそんなお方と……」
ラウルの顔色がおもしろいくらいみるみると曇る。フィリスにちょっかいを出す男などたかが知れていると、リベルトを軽んじていたに違いない。
「なんだっていいだろう。君に関係ない。それで、フィリスになんの用だ?」
「それを言うなら、僕だってあなたとはなんの関係もありませんので、教えません」
都合が悪くなったラウルが、この場から逃げようとしているのをフィリスは察する。
「いいえ。おふたりは間接的に関係ありますよ。事件を起こした犯人と、解決に導いた先導者っていう」
「おいフィリス、適当なことを抜かすな」
「……どういうことだ?」
後ろから腰を抱く手がするりと離れ、リベルトはフィリスの隣に立った。