このたびエリート(だけど難あり)魔法騎士様のお世話係になりました。~いつの間にか懐かれて溺愛されてます~
「聞いているので、用件をどうぞ」
あくまで他人行儀を崩さぬまま、フィリスは返事をした。ラウルはその態度に納得はしていないように見えたが、ようやく話を進める。
「フィリス。お前もここで次の婚約者を探しているのか? このにいる女たちは、みんなそれが目的だと聞いた」
「出会いを期待している方は多いかもしれませんが、私は違いますよ。今は仕事を頑張りたい時期なので、無理に探そうとは思っていません」
真面目過ぎると思われそうなフィリスの返答を聞いて、ラウルは軽く鼻を鳴らし、片方の口角を上げて薄ら笑いを浮かべた。
「そんなに強がるなよ。恥ずかしがらずに、誰からも相手にされませんでしたって正直に言えば、まだ可愛げがある」
「……はい。そうですね。誰にも相手にされていないので、出会いとかどうでもいいです」
まともに相手にするだけ時間の無駄だ。
好きに言わせて、この場を切り上げるのを優先にしよう。そう思い、フィリスは敢えてラウルに同調した。その表情は、まさに〝無〟だ。
「そんなことだろうと思った。……はぁ。やはりお前は、僕がいないとダメみたいだな」
「……はい?」
消していた感情が、あまりに見当違いな発言をされたことにより意識を呼び起こす。
「婚約を結びなおしてやろう。……本当は、少し前からそうしてやるつもりだったんだ。それなのに、お前の家族ときたらお前の居場所を頑なに伏せてくる。どうしようかと思っていたら、こんなところで再会できた。もはや運命だろう」
「いいえ。ただの偶然にすぎません」
こんな運命があってたまるかと、フィリスは笑顔で否定する。
(ラウル様と婚約を結びなおすなんて、死んでも嫌)
大体、よくもそんな戯言を自信満々に言えたものだ。家族も同じ気持ちだったからこそ、フィリスの居場所を伝えなかったに違いない。その時点で拒否されていると、大抵の人なら気づくというのに。
「謙遜するな。お前はたしかにぱっとしなかったが、今はそれなりによくなっている。社交場に連れて行っても恥ずかしくない程度だ。その可愛くない性格も、多少は目を瞑ってやる」
「結構です。私、ラウル様とよりを戻す気はないです」
上から目線でつらつらと喋り続けるラウルに、フィリスはきっぱりと自らの意思を伝えた。なにを言ってくれても構わない。ただ、よりを戻すのはあり得ない、と。
「……知っているぞ。お前の実家、いろいろとまずい状況だってな。家計は既に火の車だろう」
「……」
フィリスはなにも言わない。そうだったとしても、そんな状況に追い込みとどめを刺したのはラウルの婚約破棄だ。一体どんな神経でキャロル家の話題を持ち出したのかと、フィリスはラウルの人間性を疑った。
「僕と婚約を結びなおせば、またうちがサポートをしてやる。領地経営を手伝うだけでもいいぞ。ここよりもいい給料を出してやろう。お前も、お前の家族もいい加減、ラクして暮らしたいだろ?」
家族の話を出されるとフィリスが弱いのを知りながら、ラウルはわざとそう言った――かもしれないが、この発言は、フィリスにあることを勘付かせる決定打となってしまった。
「……ラウル様、もしかして、私の魔法が必要になりました?」
「なっ……!」
余裕たっぷりの顔に動揺が走る。淡々と人を攻めるのは得意な割に、自分が攻撃を受けるとすぐに顔に出るのはラウルの弱点といえるだろう。
(図星ね)
案の定、フィリスは真っ先にそう思った。
――ラウルの実家、クレイ伯爵家の持つ領地のひとつには大きな畑があり、花畑もある。
その土地の管理は、ちょうど二年ほど前に後継者となるラウルに一任されていたが、ラウルはご存知の通り歓楽街での遊びにハマり、管理をおざなりにしていた。
将来を支える妻として、フィリスも二年前からその土地の手伝いを任された。
ラウルが適当に仕事をしているせいか、農民たちも次第に怠惰になっていき――そんな状況下でも作物が実り、花が綺麗に咲き続けていたのは、フィリスが魔法で枯れたものを再生していたからだった。
フィリスと婚約破棄をして、ラウルはようやくその事実に気付いたのだろう。放置しても農民がきっちり仕事をしていたわけでなく、フィリスがひとりでやっていたことだと。
「まさか、そんなわけありませんよね。失礼いたしました。だって、ラウル様はよくこう仰っていましたもの。〝お前の魔法は、人を回復できない劣化魔法だ〟って」
散々罵られたのだ。忘れたくても忘れられない。
「劣化魔法が必要になるなんて、ラウル様に限ってありえないですよね?」
「そ、それは……いいや、あれは言葉の綾で」
「そうには聞こえませんでしたよ? それに、キャロル家の経済力は現在上り調子です。つい先日、お兄様の絵が高値で売れたのです! そこから調子がよくって、顧客もついてきたと手紙で報告を受けました」
ジェーノは魔物襲撃事件から、真剣に芸術と向き合い始めたらしい。
力をつけて簡単に家族を守ってしまうリベルトを見て、守られるだけの自分がいかに情けないかを自覚したと、届いた手紙に書いてあった。ジェーノは身体が弱いため、激しく動くことはできない。
そのため、リベルトのような屈強な騎士となり、家族を守ることはできないけれど――絵を描いて、大事な家族を支えたいと奮起したようだ。
その結果が出るのは早かった。意識を変えたジェーノの絵は、人の心に響いたのだ。
絵が売れれば、名も売れていく。モチベーションも上がり、そんなジェーノを見て父親もやる気を出している。
ラウルとの婚約破棄後の、葬式のような空気が笑い話になるくらい、キャロル家はまさに〝いい感じ〟を辿っているのだ。そもそもフィリスの仕送りだけでもそれなりの額がある。いまさらラウルの手を借りる必要などない。
あくまで他人行儀を崩さぬまま、フィリスは返事をした。ラウルはその態度に納得はしていないように見えたが、ようやく話を進める。
「フィリス。お前もここで次の婚約者を探しているのか? このにいる女たちは、みんなそれが目的だと聞いた」
「出会いを期待している方は多いかもしれませんが、私は違いますよ。今は仕事を頑張りたい時期なので、無理に探そうとは思っていません」
真面目過ぎると思われそうなフィリスの返答を聞いて、ラウルは軽く鼻を鳴らし、片方の口角を上げて薄ら笑いを浮かべた。
「そんなに強がるなよ。恥ずかしがらずに、誰からも相手にされませんでしたって正直に言えば、まだ可愛げがある」
「……はい。そうですね。誰にも相手にされていないので、出会いとかどうでもいいです」
まともに相手にするだけ時間の無駄だ。
好きに言わせて、この場を切り上げるのを優先にしよう。そう思い、フィリスは敢えてラウルに同調した。その表情は、まさに〝無〟だ。
「そんなことだろうと思った。……はぁ。やはりお前は、僕がいないとダメみたいだな」
「……はい?」
消していた感情が、あまりに見当違いな発言をされたことにより意識を呼び起こす。
「婚約を結びなおしてやろう。……本当は、少し前からそうしてやるつもりだったんだ。それなのに、お前の家族ときたらお前の居場所を頑なに伏せてくる。どうしようかと思っていたら、こんなところで再会できた。もはや運命だろう」
「いいえ。ただの偶然にすぎません」
こんな運命があってたまるかと、フィリスは笑顔で否定する。
(ラウル様と婚約を結びなおすなんて、死んでも嫌)
大体、よくもそんな戯言を自信満々に言えたものだ。家族も同じ気持ちだったからこそ、フィリスの居場所を伝えなかったに違いない。その時点で拒否されていると、大抵の人なら気づくというのに。
「謙遜するな。お前はたしかにぱっとしなかったが、今はそれなりによくなっている。社交場に連れて行っても恥ずかしくない程度だ。その可愛くない性格も、多少は目を瞑ってやる」
「結構です。私、ラウル様とよりを戻す気はないです」
上から目線でつらつらと喋り続けるラウルに、フィリスはきっぱりと自らの意思を伝えた。なにを言ってくれても構わない。ただ、よりを戻すのはあり得ない、と。
「……知っているぞ。お前の実家、いろいろとまずい状況だってな。家計は既に火の車だろう」
「……」
フィリスはなにも言わない。そうだったとしても、そんな状況に追い込みとどめを刺したのはラウルの婚約破棄だ。一体どんな神経でキャロル家の話題を持ち出したのかと、フィリスはラウルの人間性を疑った。
「僕と婚約を結びなおせば、またうちがサポートをしてやる。領地経営を手伝うだけでもいいぞ。ここよりもいい給料を出してやろう。お前も、お前の家族もいい加減、ラクして暮らしたいだろ?」
家族の話を出されるとフィリスが弱いのを知りながら、ラウルはわざとそう言った――かもしれないが、この発言は、フィリスにあることを勘付かせる決定打となってしまった。
「……ラウル様、もしかして、私の魔法が必要になりました?」
「なっ……!」
余裕たっぷりの顔に動揺が走る。淡々と人を攻めるのは得意な割に、自分が攻撃を受けるとすぐに顔に出るのはラウルの弱点といえるだろう。
(図星ね)
案の定、フィリスは真っ先にそう思った。
――ラウルの実家、クレイ伯爵家の持つ領地のひとつには大きな畑があり、花畑もある。
その土地の管理は、ちょうど二年ほど前に後継者となるラウルに一任されていたが、ラウルはご存知の通り歓楽街での遊びにハマり、管理をおざなりにしていた。
将来を支える妻として、フィリスも二年前からその土地の手伝いを任された。
ラウルが適当に仕事をしているせいか、農民たちも次第に怠惰になっていき――そんな状況下でも作物が実り、花が綺麗に咲き続けていたのは、フィリスが魔法で枯れたものを再生していたからだった。
フィリスと婚約破棄をして、ラウルはようやくその事実に気付いたのだろう。放置しても農民がきっちり仕事をしていたわけでなく、フィリスがひとりでやっていたことだと。
「まさか、そんなわけありませんよね。失礼いたしました。だって、ラウル様はよくこう仰っていましたもの。〝お前の魔法は、人を回復できない劣化魔法だ〟って」
散々罵られたのだ。忘れたくても忘れられない。
「劣化魔法が必要になるなんて、ラウル様に限ってありえないですよね?」
「そ、それは……いいや、あれは言葉の綾で」
「そうには聞こえませんでしたよ? それに、キャロル家の経済力は現在上り調子です。つい先日、お兄様の絵が高値で売れたのです! そこから調子がよくって、顧客もついてきたと手紙で報告を受けました」
ジェーノは魔物襲撃事件から、真剣に芸術と向き合い始めたらしい。
力をつけて簡単に家族を守ってしまうリベルトを見て、守られるだけの自分がいかに情けないかを自覚したと、届いた手紙に書いてあった。ジェーノは身体が弱いため、激しく動くことはできない。
そのため、リベルトのような屈強な騎士となり、家族を守ることはできないけれど――絵を描いて、大事な家族を支えたいと奮起したようだ。
その結果が出るのは早かった。意識を変えたジェーノの絵は、人の心に響いたのだ。
絵が売れれば、名も売れていく。モチベーションも上がり、そんなジェーノを見て父親もやる気を出している。
ラウルとの婚約破棄後の、葬式のような空気が笑い話になるくらい、キャロル家はまさに〝いい感じ〟を辿っているのだ。そもそもフィリスの仕送りだけでもそれなりの額がある。いまさらラウルの手を借りる必要などない。