龍神島の花嫁綺譚
「また来てくださいね、陽葉さん。次はふたりだけで、もっとゆっくり過ごしましょう。のんびりお茶するのも良いですねえ。では」

 紫苑を抱えた蒼樹が、何度も陽葉を振り返っては少し名残惜しげに台所から去って行く。

「まったく、新入りの花嫁に料理をわけなきゃいけないなんて……」
「仕方ないわ。花嫁の持ち帰った料理は黄怜様も食べるのよ」
「黄怜様は今まで花嫁を家にいれなかったのに。どうして今回の花嫁は特別なのかしら。蒼樹様も紅牙様も、新入りに夢中だわ」
「ほんとうよね。可愛らしいお顔だとは思うけど、これまでで一番美人というわけでもないのに」

 あやかし三人組が、料理を包みながらキイキイ話す。

 陽葉がいてもおかまいなしで、悪口の言い放題だ。


 台所の外で待っていようか。陽葉が苦笑いで足を一歩踏み出したとき。

「何言ってるの。新入り花嫁は、天音様に似てるのよ」

 そんな言葉が陽葉の耳に届いた。

「ああ、天音様……だからなのね。でも、なぜ白玖斗様は新入りを中の邸宅に呼ばないの?」

(ああ、また天音の話……)

 ここに来てから何度も耳にする女の名前にうんざりする。だが……。

「そんなの、偽物だからに決まってるじゃない。白玖斗様は、本物の天音様にしか興味がないわ」

 クスクス笑いとともに聞こえてきた言葉に、陽葉の身体が固まった。

 白玖斗様は、本当の天音様にしか興味がない――。

 使用人あやかしたちの戯言に、陽葉の胸がズキンと痛む。

(なぜ……)

 どうしてか、白玖斗が関わり合うと、陽葉はおかしくなってしまう。キリキリと痛む左胸に手をあててうつむく。
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