龍神島の花嫁綺譚
「志津姉……?」
穏やかな優しい性格の志津が、声を荒げるところを聞いたことがない。鋭い目つきもきつい口調も、まるで志津らしくなくて驚いてしまう。
それどころか、まるで別人のよう。
陽葉が目を見開いて固まっていると、志津がハッとして口を押さえた。
「ごめんなさい、陽葉。驚かせたかったわけじゃないのよ。でもあなたのことが心配で……」
申し訳なさそうに眉をさげる志津は、陽葉のよく知る志津だった。
一瞬見た、別人のような志津はなんだったのだろう。心配なのは、むしろ志津のほうだ。
気遣うようなまなざしを向けると、志津がふっと自嘲気味に笑う。
「そんな目で見ないで、陽葉。ずっと龍神島にいると、人の世にいた頃の自分が少しずつ失われてしまうのよ」
「失われる?」
わずかに眉間を寄せた陽葉に、志津が「そう」とうなずいた。