龍神島の花嫁綺譚
「それはだめよ」
「え、どうして……?」
突き放すような冷たい声に、一瞬、陽葉の呼吸が止まる。優しかった志津の声は、また別人のようだ。
優しかったり、急に冷たくなったり。志津の本質がつかめない。
「ここを出るなら、朔の日まで待っていてはだめ。今すぐにでもここを出るべきよ」
困り顔を浮かべる陽葉に、志津が声を落としてそう言った。
「どうして? 次の朔の日まで待てば、人里に帰してもらえるんでしょう」
ここに来た夜。陽葉はそう説明を受けた。過去には人里に帰った花嫁も数人いるのだ、と。
「そうね。でもね、人里に帰される花嫁は、龍神島のことだけでなく、今までの全ての記憶を消されるの」
「え?」
「それが、人里に帰る絶対条件。これまでの名前も人生も全部なくして、故郷とは別の村に送られるのよ。記憶を消すのは蒼樹様の役目。人里へ戻ることを決めた花嫁は、帰る直前になって初めて、全ての記憶が消されることを知らされる。そうするとみんな、不安になるの。朔の日を待ちながら龍神島で一ヶ月を過ごした花嫁たちはみんな迷うわ。ほんとうに帰ることが幸せなのか。だって、ここは暮らすには快適だもの」
わかるでしょうと、志津が目で訴えてくる。
「え、どうして……?」
突き放すような冷たい声に、一瞬、陽葉の呼吸が止まる。優しかった志津の声は、また別人のようだ。
優しかったり、急に冷たくなったり。志津の本質がつかめない。
「ここを出るなら、朔の日まで待っていてはだめ。今すぐにでもここを出るべきよ」
困り顔を浮かべる陽葉に、志津が声を落としてそう言った。
「どうして? 次の朔の日まで待てば、人里に帰してもらえるんでしょう」
ここに来た夜。陽葉はそう説明を受けた。過去には人里に帰った花嫁も数人いるのだ、と。
「そうね。でもね、人里に帰される花嫁は、龍神島のことだけでなく、今までの全ての記憶を消されるの」
「え?」
「それが、人里に帰る絶対条件。これまでの名前も人生も全部なくして、故郷とは別の村に送られるのよ。記憶を消すのは蒼樹様の役目。人里へ戻ることを決めた花嫁は、帰る直前になって初めて、全ての記憶が消されることを知らされる。そうするとみんな、不安になるの。朔の日を待ちながら龍神島で一ヶ月を過ごした花嫁たちはみんな迷うわ。ほんとうに帰ることが幸せなのか。だって、ここは暮らすには快適だもの」
わかるでしょうと、志津が目で訴えてくる。