龍神島の花嫁綺譚
「じゃあ、志津姉も初めは人里に帰ろうとして……」
「そうよ。海の村に戻って、またみんなと暮らすつもりだった。でも、そうではないと知って、わからなくなったの。全ての記憶を消されて、私のことを知る人のいない場所に帰って、ほんとうに生きていけるのかって……結局、ここに残ったって、元の自分はどんどん消えていってしまうのに……」
「そんな……」
志津から聞かされた事実に、陽葉は震えた。
蒼樹も紅牙も黄怜も、優しいフリをして、ほんとうに大事なことを陽葉に隠していたのだ。
五頭龍は、海の村に言い伝えられているような『悪神』ではない。そんなふうに思い始めていた陽葉は、彼らに騙されていたことがショックだった。
龍神島の花嫁は、やはり五頭龍への生贄なのだ。
「わかったら、陽葉は記憶を消される前にここを出なさい」
「でも、どうやって……?」
龍神島の周りの海は荒れていて、どんな舟も近づけない。どうやって迎えの舟を呼べばいいのか……。
「簡単よ。陽葉が自力でここを出ればいいの」
「そんなの無理よ」
自力で島を出るなどできるはずがない。仮にそんなことができるなら、海の村に戻ってきた花嫁がいたはずだ。