この恋、延長可能ですか?
今日はそろそろ帰れるかなあ……。


「お疲れ様でーす」


比較的スムーズに終わった仕事に安堵していると、爽やかな声が届く。振り向けば、心臓にいやーな汗が流れた。間口にいるのは営業部の雨宮(あまみや)くんだったからだ。

苦手なんだよな、雨宮くん。

いつもは誰かに頼むのだけど、この時間、あいにくオフィスに残ってるのは私だけなので、必然的に対応を求められるわけだ。

「ああ、志麻さんしか居ないんですね。丁度良かった」

「……え……と、……ど、どうしました?」

勝手に苦手意識を持っている手前、顔に出してはならない。クリーンな職場環境は人間関係が第一。


「先月の領収書、出し忘れてました。経費でよろしくお願いします」


彼は私に近寄ると、丁寧且つ他人行儀な笑顔を浮かべた。上手な仮面のようにさえ見える。思わず片目を瞑りたくなるほどのまぶしさなので、対応は早々に切り上げなければ。

惚れ惚れするような顔立ちと、安心感を覚える心地良い声。でもね?ちょっと、腹立たしいことを言うのは辞めて頂きたい。


「あ、あの……これ、締め日、とっくに過ぎてて……」

「すみません、忙しくてつい」

「でも……締め日、守って貰わないと……その……」

「はい?何て言ってるんですか?」

「だから……締め日は……」


過ぎてるって、考えたら分かることなのに……

徐々に声が小さくなっていく。この、雨宮 三成《みつなり》というひとは、入社3年目ながら、なにかと話題にあがる人だ。立っているだけで絵になるという抜群のスタイルと、華のある顔立ち。そりゃあ、女性社員は喜ぶでしょう。

けれども、私にとっては超苦手な青虫と変わらない。

もうやだ、早く帰りたい、もしくは明日誰かいる時に来てくださいって言おう。


「……分かりました……そこに、置いてください……」


顔は見なくても真っ赤であると自覚しているし、そんな自分が情けなくて涙で滲んだ。
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