甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする
土を泳ぐ

7-1 聖女と空の旅

 
 それから順調にノワルの背中に乗る空の旅が続いていた。

 龍の上に乗って空を飛ぶ体験なんて初めてでどきどきしたけれど「だいじょうぶなのー」というラピスの言葉通り、快適すぎて拍子抜けしてしまった。
 ノワルのまわりに透明な魔法の膜ができていて、ぐんぐん過ぎ去る景色なのに頬をなでる風はそよそよとやわらかい。

 空の上にいる時は、もふもふ天使のラピスが腕の中にいて、くるぅくるぅという鈴の音みたいな愛らしく喉を鳴らしていて、日差しが少し強い日の休憩はノワルのひんやりつるつるのうろこに寝転び涼を取り、風が少し強い日の休憩はロズのふわふわビロードの毛に包まれてぬくぬく過ごしていた。


 いつの間にか空から見える景色も様子を変えていき、眼下に竹林が広がる上空を飛んでいる。
 お昼を過ぎて日差しが強い時間なので、小さな湖のほとりでノワルのつるすべうろこにすりすりする休憩を取ることに決めた。

「ん……ひんやりして気持ちいい」

 指先でつるんという感触を楽しんでいると鱗龍のノワルがぺろりとおでこをなめる。
 龍になると舌が長くなるせいなのかラピスもロズも顔や首、耳をなめることが増えた。

「ん、ひゃ……」

 ノワルのつるつるうろこに身体を預けているのでぺろぺろなめられると逃げ場がなくて、不慣れな空の旅を労わる気持ちでなめてくれているのに耳や首筋をなぞるようにじっくりなめられると肩がはねて、息も上がってしまう。

「ん、ノ、ノワル……」
「うん、どうしたの?」

 ノワルの黒い瞳に甘く見つめられると心がとろりとほぐれて触れたくなって手を伸ばす。

「花恋様、かわいい」

 きらきらと光ると人間の姿になったノワルの膝の上で横抱きにされていた。
 優しく抱きしめられ、甘い感触をこめかみに落とされると胸の奥がきゅう、とする。

「それじゃあ花恋様、キスしようか?」
「ふえ……っ?」

 ノワルの直接的な言葉に変な声がもれた。
 休憩中は魔力の補給をするために大人のキスをするのだけど、改めて口にされると顔に熱がたまっていく。
 何回休憩中にしても大人のキスは慣れなくて恥ずかしい。

「花恋様、桃色の鯉のぼりみたいだね」

 くすくす笑って、ちゅ、と触れるようにキスをするから桃色を通り越して赤色になっていると思う。
 恥ずかしくてノワルの肩に顔を埋めると、ひだまりのいい匂いに包まれる。ぽんぽんと甘やかすように背中に触れるノワルの背中に腕をまわすと、頭に甘い感触が落とされた。

「そういえば、この辺りは温泉が有名なんだよ」
「えっ? そうなの?」

 ノワルの言葉に思わず顔を上げる。
 目尻をゆるめたノワルと目があった。

「うん、そうなんだよ。花恋様は温泉に入りたい?」
「うん! 温泉は大好きだから入りたい!」

 鯉のぼりの尾っぽが風に揺れるようにノワルの言葉にこくこくとうなずくと、黒い瞳に甘やかに見つめられる。

「それなら温泉行こうか?」
「えっ、いいの?」
「ここから温泉まで歩いて一時間くらいなんだけど大丈夫?」
「もちろん歩けるよ! ノワル、ありがとう」

 嬉しそうに目を細めたノワルの手にあごを掬われ、親指が唇をなぞる。

「どういたしまして――早く休憩を終えないと日が暮れるまでに温泉に着かなくなるね」
「…………ふえ?」

 予想もしていなかった答えが返ってきて心臓がどきどき跳ねていく。
 魔力の補給をしないとノワルの身体が辛いのだとわかっていてもキスをする雰囲気やキスのはじまりはいつも照れてしまう……。

「花恋様、かわいい」

 そおっとまぶたを閉じるとノワルの香りがゆっくり近づいてきて私の唇と重なっていく。

 ちゅ、ちゅ、と小鳥のさえずりみたいなキスはまぶたやおでこにも落とされる。
 甘い音が弾けるたびに心がきゅうんと音を鳴らす。
 恥ずかしかった気持ちは甘い音が弾けるたびに遠くに去っていき、この先にあるともっと甘いものを求めてノワルの手に自分の手をからめ、きゅっと握ってしまう。

「ああ、もう……。本当にかわいいね……」

 キスの合間にノワルに吐息でささやかれると身体の力が抜けた。
 小鳥のさえずりが聞こえなくなると甘やかな水浴びに変わっていく。

 ノワルの大きな舌に掬われ、上あごや根元をなぞられるとくらくらするくらい気持ちよくて頭の中はノワルでいっぱいになる。

「ん、んっ、……」


 キスの合間に桃色の吐息を漏らして、桃色鯉のぼりは黒色鯉のぼりと魔力補給を泳いでいった――。
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