甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする

9-2 聖女と四つの実


 甘すぎるロズのキスで赤らんだ顔を隠すように、龍の(ひげ)の草むらにしゃがみ込む。どこにあるのだろうと、もしゃもしゃと生える草をそっと手でかき分けていく。しばらく探し続けて、真っ青な龍の実を見つけた。

「あっ、あった! ちゃんと龍の実かな?」
「大丈夫、龍の実だよ。綺麗な実を見つけたね」

 ノワルに頭をぽんぽんと撫でられて、ようやく落ち着いた頬の熱がぶり返す。柔らかな手つきが、どうしても昨夜のことを思い出させるから心臓がうるさく跳ねてしまう。
 どきどきする心臓をそっと押さえると、おでこに甘い感触が落ちてくる。

「ノ、ノワル……っ、どきどきし過ぎて、心臓が爆発しちゃうよ……っ!」
「花恋様、かわいい」
「あのね、冗談じゃなくて本当だからね!」

 ノワルの唇を両手で塞いで主張すれば、黒い瞳が驚いたように瞬いた。すぐに、そっと両手を外してきたノワルが素直に頷く。

「ごめんね、花恋様。爆発したら困るから気をつけるね」

 ほお、と安堵の息をつくと、今度はノワルが困ったように眉尻を下げる。

「花恋様、龍の実を見つけられなくて困ってるんだよね。よかったら、俺の分も見つけてくれないかな?」
「も、もちろん……っ! 頑張って見つけるね」

 ノワルの言葉でもう一度、龍の(ひげ)の草むらで龍の実を探しはじめる。ラピスラズリ色の宝石みたいに見えるから、本当に宝探しをしている気分になってくる。探しながら、つやつやで立派な粒の龍の実が、空気も沢山詰まった良い龍の実だと教えてもらった。

 小さな龍の実は沢山あるけれど、大粒のものはなかなか見つからない。強張った背中と腰を伸ばすために立ち上がると、キラリと草むらが光った。誘われるように茂みを調べれば、とても大きな龍の実がちょうど四個同じ場所から見つかった。

「仲良しな龍の実だね」
「本当だね、俺たちみたいだね」

 ノワルの返事が嬉しくて気持ちが鯉のぼりの尾みたいに、ぴょん、と跳ねた。

「花恋様、ありがとう。龍の実は、登龍門に着いたら使おう」
「うんっ!」

 五色の吹き流しのショルダーバッグに龍の実を大切にしまい終わると、ノワルが嬉しそうに私を覗きこむ。今度は柔らかなたなざしに、どきどきして心臓がぴょん、と跳ねてしまう。

「えっと、どうしたの……?」
「花恋様は鯉になっても、かわいいだろうなあと思って」
「ふえっ? こ、鯉?」
「うん、登龍門に着いたら花恋様も鯉になろうね」
「ふえええ……っ?」

 今度はノワルの発言にびっくりして肩が跳ねた。

「登龍門は鯉で昇らないと願いが成就しないんだ。花恋様は、鯉になるのは嫌だった?」

 突然のことにびっくりしたけれど、慌てて首を横に振る。

「嫌じゃないよ! みんなが龍になった時も私は龍ならなかったから、自分が鯉になるなんて想像してなかっただけだよ──みんなと同じなんて嬉しい」
「ああ、もう、まったく……花恋様はかわいいね」

 ノワルに唇を掠めるようなキスをされた。

「ふっ、ふええ……? な、なんで?」
「花恋様がかわいいからキスしたいけど、爆発したら困るからね」
「う、うん……」

 返事をしながら見上げると、ノワルがサイドに落ちた髪を耳にかけてくれる。触れられた耳朶から体温がじんわり広がっていく。

「やっぱり爆発すると困るよね」
「……う、うん」
「爆発しないように、少しだけなら大丈夫かな?」
「……うん」

 心臓が痛いくらいどきどきするけど、やっぱりノワルに触れて欲しくて。まぶたを閉じて上を向く。


「ああ、もう……。本当にかわいいね」

 ゆっくりした甘やかな触れ合いに、心がとろとろに蕩けていった。
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