甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする
登龍門を泳ぐ

9-1 聖女と龍の実


 テントや結界を仕舞い、いざ登龍門に向かって一歩を踏み出した途端、ロズに止められた。

「カレン様、登龍門に行く前に『龍の実』を採っていきましょう」
「龍の実?」

 初めて聞く単語に首を傾げるとラピスに手を繋がれる。手を引いて、たたっと走り出すラピスに一緒に着いて行く。

「かれんさまーこっちなのー! ここにあるのー」

 もしゃもしゃと伸びている草むらにしゃがみ込む。深緑色の細長い葉っぱの中で、青色の髪の毛がぴこぴこ動いているのがかわいい。

「あったのーこれなのよー!」

 ただの草むらだと思っていたのに、ラピスがビー玉くらいの真っ青な実を掲げて見せてくれた。龍の実は、ラピスラズリみたいな青色なので、神秘的で本物の宝石みたい。

「すごく綺麗な実だね」
「うんなのー! りゅうの実はーりゅうになるための実なのー」

 えっへんと胸を張るラピスが可愛い。大人可愛い系のラピスも可愛かったけど、やっぱり小さなラピスは天使。好き、かわいい、好きのエンドレスリピートする感想しか浮かばない。

「そうなんだっ!」

 今ひとつ内容が分からないけど、ラピスが可愛いことは分かった。もうそれだけでいいんじゃないかな? と思ってぎゅううとラピスを抱きしめて、おでこにちゅ、とキスをする。ふにゃりと頬を緩ますラピスに胸がきゅんっと弾けて、キスを落とす。

「カレン様は仕方ないですね……」
「うう、だって、可愛かったから?」

 横に来たロズに呆れられてしまったので、素直に謝った。

「龍の実は、龍の(ひげ)と呼ばれる植物になる実です。龍の実や龍の玉と呼ばれていますが、変わった実で空気が沢山つまっています」
「空気がつまってるの?」
「ええ、そうです。見せたほうが分かりやすいですね」

 ロズがそう言うと、龍の実の空色の皮を()くと真っ白の玉が出てきた。

「カレン様、見ててくださいね──」

 真っ白な龍の実をロズが草の生えていない地面に投げると、ぴょーんと大きく弾む。軽々と私の背丈を越えて弾む玉に、目がまん丸になる。

「ええっ……? スーパーボールみたいだね……!」
「空気がつまっているので、とても弾みます。弾み玉と呼はれていて、子供たちが遊ぶために集めることもありますね」
「そうなんだ! 楽しそうだから、私もやってみてもいい?」

 うずうずしてロズに聞くと、龍の実をひとつ渡してくれた。ロズの真似をして()いてみるけど、意外と難しい。なんとか真っ白な玉を取り出して、地面に投げてみる。
 ぽーん、とスーパーボールみたいに弾む玉に感動した。見た目が植物なのに、弾むっていうギャップがたまらない。

「すごいね……っ!」
「ええ、すごいです。空気がつまっている龍の実を口に含んでいると、どんな急流のなかでも楽に息をすることができますから」
「そうなんだ」
「前回の登龍門を昇り切れたのは、龍の実を見つけたおかげです」
「水の中にも生えてるの?」

 鯉のときは、地上にある龍の実を採ることができないから、不思議に思って口にする。

「龍の(ひげ)は、季節を問わず緑の葉っぱを深緑色に茂らせています。その様子から花言葉が『変わらぬ想い』『不変の心』なのです──強く龍になりたいと変わらず思い続けている鯉に与えられるのが、龍の実なんですよ」
「そうなんだ……っ! ロズ達の想いが叶って、龍の実がもらえたんだね。すごいね……っ!」
 
 さらりと話してくれたけれど、三人の想いが届いたなんてすごい強い想いだったんだと思う。

「龍の実って自分たちで見つけてもいいの?」
「ええ。今のわたしたちは、鯉になれますが、龍なので龍の実がなくても平気なのです」
「ええっ、そうなの? 龍の実がいらないのに、なんで採りにきたの?」

 びっくりして目を瞬かせると、ロズの口角が綺麗な弧を描く。

「龍になれた縁起のいい実なのと、うっかり者なカレン様と登龍門を昇るなら必要かと思いまして?」
「ふえっ……?」

 驚いて変な声をあげれば、ロズが意地悪そうに瞳を覗きこむ。

「嘘ですよ」
「ふええ……? うう、ロズの意地悪……っ」
「嫌いになった?」

 じとりと見つめても艶やかに笑うロズに心臓が跳ねた。
 
「カレン様は、隣にいて守られていてください。必ず元の世界に連れて帰ります」

 優しさのにじんだロズの言葉が景色がぼやけていく。意地悪のあとに甘やかなことを言うから、ロズはずるい。ますます好きになっちゃう。

「ロズの意地悪なところも好き」
「はあ……まったくカレン様は仕方ないですね」
「ふええ? な、なんで……?」
「そんな可愛い反応されるとますますいじめたくなりますけど──カレン様、お仕置きされたいの?」

 ロズの長い指がするりと頬を撫でて、顎を掬われる。熱の集まる顔で小さく頷けば、とんでもなく甘やかなお仕置きのキスが落ちてきた。
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