彗星航路
志彗先輩のLINEのトーク画面には、きせかえを適用された背景画面が全面に映っている。私と志彗先輩はLINEで話したことがない。
今まで、“先輩”とLINEをしたことがないわけじゃない。部活にも生徒会にも“先輩”はいて、事務連絡が主だったとはいえ、特に抵抗なくLINEをしてきた。なんなら自分が“先輩”だったことだってあるから、後輩から少々適当なLINEを送られてきたところで意外と気にしないものなんだとは分かっている。
それなのに、どうして、こんなに緊張してしまうのか。両手でスマホを握りしめたまま、ぐっと唇を噛んだ。
「……志彗先輩だって、絶対、気にしない、はず……」
そうじゃない。そうじゃなくて、私は。
『自分よりカッコいい女子なんて女じゃなくね?』
志彗先輩に勘繰られるのが怖い。
「いや、いやいやいや、勘繰られたところで、勘違いですって言えばいいし……」
「碧衣、なんか本貸して」
「うっわ!」
突然開いた扉に驚いてスマホを取り落とした。龍樹と榛樹が同じ顔でそろってドカドカ部屋に入ってくる。
「なに、本?」
「現国の時間に、春休みに読んだ本持ってこいって」
ちなみに、二人は双子であることを楽しんでいるのか、あえて髪型や服装まで同じにしている。それでも家族の私達にとっては違う顔なのだけれど。
「碧衣たくさん持ってるから、どれか持っていこうと思って」
「一冊も読んでないのに、何言ってるの」
勝手に本棚を物色させていると「これ薄くていい」「厚いほうがいんじゃないの?」と、弟達なりに戦略を練っていた。まだ中学三年生なのに私の身長を追い越しているから、本を取るのに苦労もない。