副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「もし聞いたことを他言したら、あんたも、あんたの家族もどうなるか分からないぞ」
「あの、何も聞いていませんので…」
「そうか、それなら良い」
そう言って水嶋マネージャーはいなくなった。やっとの思いでバックヤードに入った私は、そこにへなへなと座り込んでしまった。
(倉田支配人の死には、水嶋マネージャーが関係しているのか? でも、さっき聞いたことを誰かに話したとして、誰が信じてくれる……? 信頼していた倉田支配人もいない、ちゃんとした証拠もない。それに、あれでは脅しじゃないか)
徐々に、恐怖から怒りに変わってきた。
みんなから慕われていた倉田支配人を死に追いやった、あんな奴がいる所では働きたくない。
二度と顔も見たくない…!!
私は後日、辞表を提出して、ホテル・ザ・クラウンを去った。あの日聞いたことは、もう墓場まで持って行こう……そう決めて。
***
青木様の話を聞いて、私は体が震え出しそうだった。話しをしていた青木様は、途中から泣き出していた。
私も泣きたい気持ちに駆られたが、仕事中ということもあって理性で押さえつけた。
「青木様……お話しいただいて、ありがとうございます」
「あの時、水嶋マネージャーの脅しに屈せず、何かできることを探せば良かったのかもしれない…と今でも夢に見ることがあって、ずっと後悔していたんだ…。今さら17年前のことを話しても仕方ないのに、こんな話をしてすまない」
「いえ、私は父の死の真相に近づくことができて、良かったです。ずっと一人で抱えてこられたんですね……」