副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「ふん、意図的にやったかどうかなど、どうでも良いことだ。あの写真が事実でしかない。他の皆さんは、どう思いますか?」
こんな発言をして、自分が優位に立ったつもりなのだろうか? 他の役員陣は賛同すべきなのか、迷っているように見える。そして、ずっと黙っていた父、七瀬社長が口を開いた。
「副社長、先ほど『事実とは全く異なる内容』と言っていたが、具体的にどう違うのか説明はできるか?」
「はい、そのためには、本件の関係者をここに参加させても宜しいでしょうか?」
「なんだと、部外者の参加は……」
「水嶋専務、良いではないか。役会の決議事項も全て話し終えたし、両者の意見を平等に聞くのも大事だと思うが」
「社長がそうおっしゃるなら…分かりました」
水嶋専務が押し黙る。ドアの外で待機していた大成に頼み、澪と竹田を連れてきてもらう。そして、大成、澪、竹田の3人が会議室に入ってきた。
「失礼します」
澪も竹田も、緊張した面持ちで入室する。
「それでは倉田さん、まずあの日何があったのか、説明してもらえますか?」
「はい。あの日は竹田さんからご飯にお誘い頂きました。先日ゲストから私と竹田さん宛に頂戴したお菓子を頂き、副社長に関する噂をフロントの水嶋美子さんが言いふらしているという情報を教えていただきました」
「なんだと?! 娘は関係ないだろう」
「専務、今は倉田さんが話しています。倉田さん、噂の内容とは具体的にどのようなものですか?」
「以前、副社長は椿グループの社長令嬢と付き合っており、当時結婚の話も出ていたと。今は結婚の話も無くなったけれど、椿さんは会食等に顔を出すので、副社長は今も頻繁に会っている……ということを、水嶋さんが周りに言いふらしているという話でした」