副社長の甘い罠 〜これって本当に「偽装婚約」なのでしょうか?〜
「なぜ、水嶋美子さんは、私が行く会食に椿麗香さんが現れることを知っていたのでしょうか。会食に現れるのは不定期なのに、不思議でなりません」
「それが、何の証言になるんだ」
水嶋専務が、ふんっと鼻息を荒くしている。
「……そして、その噂話にショックを受けた私が、帰り道にぼーっとしていて道を踏み外し、それを竹田さんが転ばないよう手を貸してくれました」
「ここからは私がお話しします。倉田さんを支えた時にすぐ手を離せば良かったのですが、私も酔っていたのと、以前から一方的に倉田さんのことを慕っていたこともあり、ついその場で告白してしまいました。
もちろん、倉田さんにはその場で断られました。七瀬副社長のこと以外考えられないと」
「だからなんだ。そんなこと、後からいくらでも口裏を合わせられるだろう?」
「水嶋専務が探偵を手配して倉田さんに張り付いていたこと、探偵にあの写真を撮らせたこと、そしてシステム部の社員経由で全社一斉メールを送信したことは裏が取れています」
「なんだと!?」
バンっ!!!と机を両手で叩いて、顔を真っ赤にして怒っている。これは相当お怒りだ。
「人を侮辱するようなことを言って、ハッタリでは許されんぞ? まぁ、証拠なんてないんだろうがな。
社長、ご自身の息子とはいえ、いささか甘やかし過ぎたのではないですか? 何もお咎め無しでは許されませんぞ」
他の役員陣も緊迫した空気の中、社長の発言を待つ。
「七瀬副社長、裏が取れているということは、なんらか証拠があるんだな?」
「はい、証拠について説明する前に、他にもお見せしたいものがいくつかあります」
そう言って大成に目配せすると、大成がプロジェクターである写真を投影した。