片翼を君にあげる④
レノアのこの時代での名は、琴李ーー。
話せない俺は、手話を取り入れたジェスチャーで彼女に言葉の替わりに色々伝えた。
もう一度歌ってほしい、と頼むと、照れながらも歌ってくれた。
レノアの歌声をじっくりと聴いた事はなかったが、こんな感じなのかなーー?
ついついじっと見つめてしまっていると、気付いた彼女がはにかむようにして微笑った。
ここ暫く……。クリスマス以来、レノアと穏やかな時間を過ごす事が出来なくなっている俺にとて、例え前世の彼女であってもこの時間を愛しく感じた。
天使の過去が描かれた絵本には、容姿と歌声に心を奪われた、みたいに書かれていたが、きっと違う。
きっと天使も、彼女とこうして過ごす穏やかな暖かい時間に居心地の良さを感じていたに違いない。
……。
彼女と過ごす時間はあっという間だった。
天使は……。いや、俺は、"人間界に行く事も、人間に関わる事も禁忌"だ。と、分かっていても、彼女に何度も会いに行った。
1日が終わり、また次の日も、その次の日も……。毎日毎日、彼女と会った。
最初に出逢った森の中に、毎日のように居てくれる彼女に、『きっと彼女も、自分に会いたいと思ってくれている』と感じていた。
……けど。
彼女が住む村の人々は、得体の知れない異人の俺を良くは思っていなかった。
特に、彼女の幼馴染みの聖と言う男は……。
俺と彼女が一緒にいる所を目撃して以来、聖は何かと見張っているように側に居た。
彼女がそれを嫌がり怒ると、帰ったフリをしながらも、少し離れた物陰に隠れて様子を伺っていた。
「ごめんね。聖はね、心配性なのよ。私が昔、身体が弱くて病弱だったから……。
悪い人じゃないの。許してあげてね?」
彼女にそう言われて、微笑んで頷いていたけど……。俺は、気付いていた。
聖が俺に向ける鋭い視線、敵対心を……。
……
…………
そして、事件が起こるんだ。