片翼を君にあげる④
振り返って、瞳が重なって、私は暫く動く事が出来なかった。
言葉を発する事も、息をする事さえ、きっと忘れていた。
止まったかのような時。
動き始めたのは、ランが微笑んでくれた瞬間だった。
同時に、私の胸にはチクリッと小さな痛みがまた疼き始める。
そんな私に、ランが言った。
「何処に行くの?」
「え、っ……?」
その言葉に、私は動揺を隠せなかった。
「私に会いに来てくれたんでしょ?
私に悪いと思って、謝りに来たんでしょ?
……それなのに、帰っちゃうの?」
「っ……ラン」
脚を踏み出す事も、後退りする事も出来ない。
すると、私に歩み寄って来たランが私の髪に手を伸ばして、そっと触れながら言った。
「"待って"って、さっき私に言ったよね?
だから私、こうしてもう一度レノアの所に来たんだよ?」
そう言いながらランが私の髪に、オレンジ色のチューリップの髪留めを着けた。
それは、私がクリスマスのあの日。ランにお揃いでプレゼントしようとしていた品と、同じ。
私を見つめたまま、ランが続ける。
「ねぇ、レノア。私達友達だよね?
オレンジ色のチューリップの花言葉は"永遠の友情"、でしょ?
だから、レノア。私のお願い……聞いてよ」
「おね……がい?」
ランの為だったら、何でもしようと思った。
したいと、思ってた。
いや、しなきゃいけない、って分かってた。
けどーー……。
「レノアの命を、私にちょうだい」
「っ、……」
問い掛けに返ってきたランの言葉に、私は即答出来なかった。
まさかのお願いに目を見開いたままの私を見て、ランはくすっと笑うと話し続ける。
「私とレノアの立場を交換すれば、私は生き返る事が出来るの。
あ、正確に言うと……私の身体はもうないから、レノアの身体を私が貰う事になるんだけどね」
「っ、私の……身体、を?」
「そう」
ランは頷くと、私が胸に着けていたブローチを指差す。それは、去年の誕生日にツバサが私にくれた夜空のブローチ。