片翼を君にあげる④
長い長い廊下を進んで、目的の書庫の扉の前までやって来た。
赤い大きな扉は相変わらず不気味にも見えたが、その怪しい雰囲気は今の未来を変えてくれる運命の扉のようにも、俺には思えた。
恐れずに立ち向かえば、きっと大切な人を救えるーー。
俺は、自分にそう言い聞かせて、書庫への扉を開けた。……すると。
《ようやく来たか。我が器よ》
「っひ!だ、誰っ……?!」
書庫に足を踏み入れると同時に、天使が語り掛けて来た。
初めての事態に驚いたジャナフは、俺にピッタリとくっ付く。俺はジャナフの肩をポンポンッと叩いて落ち着かせると、一歩前に出て口を開いた。
「器になるつもりはない。俺は俺だ。
……けど。貴方が俺を欲しがる理由を知りに来た」
そう、それが知りたい。
俺達天使の血を受け継ぐ者に語り継がれる、"真に愛する者とは決して結ばれない"という戒め。
それを知り、解決する事が出来れば、俺はそれがレノアを救う未来へと繋がると考えていた。
100%の確証はないが、これが今の俺に出来る精一杯の事。
天使の傍に行く事は、俺が俺でなくなってしまう可能性もあるが……。レノアの命が救えないのならば、それは俺にとって命を失うのと同じ事だ。
だから、俺は立ち向かう。
レノアを救う為に。
俺が俺で在り続ける為に。
一緒に未来を、生きて行く為に……。
すると、決意を伝えた俺に、天使が言った。
《……面白い。
ならば、その身を持って体験するがいい。
果たしてお前に、私と違う答えが導き出せるのかーー……》
どういう意味だーー?
そう尋ねようとした矢先だった。
フッ、と、足元の床が突然消えて、悲鳴をあげる間も無く俺は下へ、下へと落ちて行く。
真っ暗な、闇。
落ちて、落ちて……逆らう事もしないでいると、いつの間にか、意識を失っていた。
眠っているような意識の中で、歌声が聴こえる気がした。
それは懐かしい、懐かしい……。子守唄のように安心する心地良さもあったが、胸を熱くさせられる歌声だったんだ。
……
…………。