高貴な財閥夫婦の秘密

那留と美奈が一階に下りると、知嗣と梨良が待っていた。

梨良が知嗣にしがみつくように抱きついている。

「おはよ！」
「おはよう！梨良、知嗣さん」

「おはよう！」
「おはよ〜！」　

「フフ…梨良、可愛い(笑)」
「梨良。お前、毎日それじゃん！(笑)」

「いいの！
ギリギリまで、知くんに抱きつくの！」

「トモ、暑くね？」

「うーん…暑いは、暑いけど…
梨良なら、良いよ」

「フフ…そうか(笑)
………じゃあ、そろそろ出るか！」

「そうね！」

「うん。
梨良、じゃあ…行ってくるね」

知嗣が梨良の頭をポンポンと撫でると、梨良は切なそうに離れた。
「うん…
行って…らっしゃい…
気をつけてね。
那留くん、美奈さんも、行ってらっしゃい」

「あぁ！」
「行ってきます、梨良！」

手を振り出ていく三人を、梨良は見送った。


知嗣と那留が自家用車を出し、美奈は毎日知嗣に会社に送ってもらっている。
車に乗り込み、那留が運転席の窓から軽く手を振り先に出た。

そして知嗣も助手席に美奈を乗せ、駐車場を出た。

梨良は洗濯を始める。
洗濯機を回している間、休み休み掃除をする。

体力のない梨良は、いっぺんに掃除すると疲れて目眩がするからだ。

「あ、そうだ！今のうちに玉子買っておかないと…」

買い物は基本、土日の知嗣達の休みの日に四人で行っている。
しかし時々、買うのを忘れることがある。

そんな時梨良は、みんなが仕事中一人で出るようにしている。
でないと那留の手を煩わすことになり、知嗣と美奈に寂しい思いをさせるからだ。

急いで着替えて、屋敷を出た。

『外に出たい時は、いつでも連れてってやるから遠慮なく言え！
こんな言い方、失礼だが……
それが、俺の義務だろ？
それに嫌じゃねぇよ？
梨良と出かけるの』

那留は、こんな風に言ってくれている。

しかし梨良が、そんな簡単に那留に頼めるわけがない。
ただでさえ“私のパパのせいで、みんなを傷つけている”と思っている梨良。

そんな梨良に、これ以上のワガママは言えないのだ。