高貴な財閥夫婦の秘密
「―――――では、この方向でお願いします」

こちらは、知嗣。
会議を終え、会議室を出た。

「瀧沢!」
そこに、同僚が声をかけてきた。

「あ、お疲れ様」

「なぁ、瀧沢って瀬戸川財閥の令嬢と幼なじみなんだろ?」

「………は?」
那留以外から梨良の名前が出て、思わず怪訝そうに見てしまう知嗣。

それを気にもとめず同僚が「今度紹介してよ!」と言ってきた。

「彼女は、先月結婚したばかりだよ。
それに、那留…あ、旦那も嫌がる」

“那留が旦那という事実だけでも”苦しくて辛いのに、僕以外の男になんか会わせなくない!

そんな気持ちで言った、知嗣。
あくまでも冷静に伝えてはいるが、心の中は吐き気がする程荒れていた。

結婚したことはもちろん知っているが、会ってみたいと言ってくる同僚に「とにかく、旦那が嫌がる」と伝えなんとか説得した。

その後知嗣は人気のない休憩スペースに向かい、スマホを操作し始めた。

“梨良”
梨良の電話番号を表示させる。

通話ボタンをタップしようと、親指を動かす。

「今なら…良いよね……?」
呟いて、通話ボタンをタップした。

とにかく、梨良の声が聞きたい。
そんな思いで、出てくれるのを待った。

しばらくプルプル……と、梨良が出るのを待つがなかなか出ない。

いつもなら、電話したらまるで待ち構えていたかのように出てくれるのに。

知嗣はため息をつき、通話ボタンを切ったのだった。


一方の美奈は、客の内覧を終え事務所に帰ってきた頃だった。

「和田町さん、凄いね!」

美奈は、会社では旧姓の“和田町”のままにしている。
結婚したからといっても、それと仕事は関係ないし何よりの那留や知嗣、梨良への配慮である。

「え?」

「結婚しても、営業成績は変わらない!
凄いなぁ〜
しかも旦那さん、大手の社員でしょ?
幼なじみは有名な財閥だし……
羨ましい〜」

「………」

「ん?和田町さん?」

「え?あ…
すみません…
えーと…そうですね!
自分でも、凄いなって思います。
財閥夫婦と幼なじみで親友なんて!」

微笑み言うと、同僚が「いいなぁ~!今度、紹介して〜!」と言ってきた。

「機会があれば」と言葉を濁して言うと、同僚は嬉しそうに仕事に戻った。

美奈は、去っていく同僚を見つめながら「羨ましいんなら、いつでも代わりますよ」と呟いた。

そして切なく瞳を揺らし、自身も仕事に戻った。

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