今夜君に、七年越しの愛を
「きみが千代ちゃん?よろしくね」
千代の人見知りが爆発した挨拶に続き、明彦さんの声が聞こえる。
ちらりと横目で見ると、緊張した後ろ姿と満面の笑みの──明彦さん。
それぞれ大きさの違う7人分の皿を用意し、みそ汁、肉じゃがをよそう。
そしてご飯が丁度炊けたとき、風呂場から仲良く2人出てきたのは、今年大学受験生の次女、紗和と...8歳のおませさん、峰子である。
これで全員揃った、桜井家のメンバー。
おさらいしましょうか?
まず私、長女の春鹿が25歳、次女は17歳の紗和、次男の海吏、4年生の三女千代、四女峰子は小学2年生、そして麦。
本当はもう一人、兄がいるのだがもう家を出ていってしまっている。
千代とみねがお膳立てをしてくれるので、台所で紗和と二人。
「最近はどんな感じ?やっぱり受験だとクラスの雰囲気変わるよね」
「うん、まだ実感は湧かないけど...頑張らなきゃなって思ってる」
「最初飛ばし過ぎると疲れるから、段々ルーティンを作っていくと良いかもね」
やはり受験はしんどいよね。
私がすべきは環境整備とメンタルケア。
この二つ、ないと本当にキツいから、あの感覚を味わせたくないから。
全て料理を並べ終わったところで、夕食が始まった。
「「「「 いただきまーす! 」」」」
ご飯が覚めないうちに全員の紹介から始まり、明彦のことも皆に説明する。
上の子たちは「来客」という時点でどういう関係なのか勘づいていただろうが、麦は分からないし。
峰子に至っては、知っている風な表情で明彦をしげしげと見定めて。
「...ねぇねの好きなところは?」と尋ねたのには、流石に、紗和と顔を見合わせて笑ってしまった。
夕飯準備中、明彦さんはずっと千代と話していたようだった。
心なしか千代が居心地悪そうな...
人見知りなのだと先に言った方が良かったな。
明彦さんは私の隣に座る予定だったが変更されたようだ。
今は千代と峰子の間。
───この時に気付いていれば良かったと、後になって思うのだが...