The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
「『セント・ニュクス』は色んな組織を併合してるんだろう?なら、併合された組織の中に、教育を受けた者がいてもおかしくないと思うが」

と、ルルシー。

うん。その可能性はあるね。それならおかしくはない。

『セント・ニュクス』が併合した組織の中に、教育を受けた者がいれば。

化学兵器使うのはどうですか?って、グリーシュに提案したのかもしれない。

でも、気になるのはそれだけじゃないのだ。

「…化学兵器の造り方を知ってるのは、誰です?」

「…」

…こればかりは、学校で教育を受けました、じゃ説明がつかないぞ。

「正直言って、俺でも化学兵器の造り方なんて知りませんよ」

「…だな」

ルティス帝国で、最も高度な教育を受けた俺でさえ。

化学兵器の造り方なんて知らない。

種類とか効能とかは、知識としてある程度は知ってる。

でも、実験室に放り込まれて、よし化学兵器造れ、と言われたら。

棒立ちするしかないじゃないか。

ちょっと想像しただけでも、難しいことだと分かる。

化学兵器を造るなんて、簡単なことじゃない。

百歩譲って造るだけなら、造り方のノートを見ながら、ビーカーと試験管混ぜ合わせて出来るかも。

でも、化学兵器は敵にぶつけて初めて効果を表すものでなければならない。

製造中、ちょっとでも下手をすれば、被害を受けるのは自分達なのだ。

数ミリグラム調合する量を間違えた、だけで。

毒ガスを入れた容器を、ちょっと床に落とした、だけで。

それだけで、自分達が甚大な被害を被る恐れがあるのだ。

化学兵器を実用化するなら、管理体制を万全に整えなければならない。

毒ガスを造るだけの知識を持った人間も必要だ。

それも、一人二人じゃ駄目だ。

化学兵器の扱いに精通している人間を、ダース単位で用意しなければいけない。

また、化学兵器を造る為の原材料を何処から手に入れた?

薬局に行ってくれるようなものじゃないぞ。

材料の入手ルートも、辿れないようにカモフラージュする必要がある。

化学兵器を使おうなんて、言うは易しだが、本当にやろうと思ったらどれだけ大変なことか。

それらを全て、『セント・ニュクス』はやってのけたのだ。

ルリシヤがやったと言うなら、納得出来る。

彼が一人いれば、それくらいのことはやるだろう。

でも、ルリシヤは馬鹿じゃないから、そんなことはしない。

頭が良い奴ほど、そんな手段は使わない。

つまり、『セント・ニュクス』には頭の良い馬鹿がいるのだ。

化学兵器の運用を、本気で考え、実行に移すことが出来る…有能な馬鹿が。

…無能の馬鹿より、余程タチが悪い。

「…厄介ですね」

「…あぁ」

いっそ、化学兵器より厄介だ。

一体何処の誰が、グリーシュに化学兵器の運用を提案したのやら…。
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