The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
「…フューニャ、泳げないのか」

「…別に泳げない訳じゃありません」

「でも水が怖いんだよな?」

「…別に怖くありません」

…あ、そう。

俺は試しに両手の手のひらでプールの水をすくい、フューニャの顔にぴしゃっ、とかけてみた。

「ひゃう!」

「…」

…凄く可愛い反応をされた。

「やっぱり苦手なんじゃないか」

「…ルヴィアさんは両生類だから、水でも陸でも生きられるのかもしれませんが。私は哺乳類なので、陸でしか生活出来ないんです」

フューニャは恨みがましそうに俺を睨みながら、かなり苦しい言い訳をした。

「…俺も哺乳類なんだけど…」

「…ふん」

あっ、機嫌損ねちゃった。

そうか…フューニャ泳げないのか。水も苦手、と。

それは初めて知った。

「でも風呂は大丈夫じゃないか」

「お風呂は別です。こんなに大きくありませんし」

「あ…成程」

まぁ、風呂桶程度じゃ溺れないもんな。

それに、箱庭帝国にはプールなんてなかったんだろうし…。こんなにたくさんの水の中に入るのは、そりゃびびるだろう。

これは俺が迂闊だったな。

「ごめんな、フューニャ…。気づかなくて」

「…」

フューニャは、ふるふる、と首を横に振った。

言ってくれれば、無理に連れてこなかったのに。

フューニャが泳げないのは、分かった。

水が苦手なのも理解した。

とりあえず、浮き輪を借りてこよう。

フューニャの華奢な身体にすっぽりと嵌まる浮き輪を借り、それをフューニャに装着。

「…動きにくいです」

「でも、それで溺れることはなくなったよ。ほら、手繋いであげるからおいで」

「…」

まずは、水に慣れるところから始めよう。

フューニャの言う通り俺達は哺乳類だし、現代ルティス帝国では、別に泳ぐことが出来なくても普通に生きていける。

でも、泳げて悪いこともない。

どうせなら、少しでも克服出来た方が良いのではないか?

「…良いって言うまで、手、離さないでくださいね?」

「分かってるよ」

自転車の練習じゃないんだから。離したりしないよ。

フューニャの手を引いてあげると、フューニャはそろりそろりと、一歩ずつ歩みを進め、プールの中に入った。

「足着いてるからな、大丈夫」

「は、はい」

良かった。なんとか水の中に入ることが出来た。

じゃ、次のステップだ。

「手繋いでてあげるから、ばた足してごらん」

「…」

フューニャの顔が曇った。

やっぱり、まだ怖いようだ。

「大丈夫。何があっても絶対離さないから。ゆっくりやってごらん」

「…分かりました」

よしよし、良い子だ。

そういえば俺、割と見よう見まねで泳いでるから、正しい泳ぎ方の伝授法なんて知らないんだが。

こんな教え方で、大丈夫なんだろうか。
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