The previous night of the world revolution3〜L.D.〜
洗濯を終えた私は、次に夕飯を作る為にキッチンに入った。

ここに来たばかりの頃は、美味しくない祖国の料理しか作れなかったものだが。

最近では、すっかり上手くなった。

ルヴィアさんは何を作っても美味しいと食べてくれるので、作り甲斐がある。

今夜はあれを作って、それからこれを作って…と、今夜の献立に思いを巡らせた。

大好きな人の為に食事を作るのは、ちっとも苦ではない。

今から作れば、ルヴィアさんが帰ってくる頃には出来立てで食べられるだろう。

私はそう思って、キッチンに立ち、調理道具を出そうとした。

そのとき。

「…?」

ダイニングテーブルの上に置きっぱなしにしていた携帯が鳴り始めた。

ルヴィアさんからの電話だった。

「はい…?ルヴィアさん?」

『あっ、フューニャ…。ごめん。夕飯、もう作ってたか?』

「いえ…今からですけど」

これは、もしかして。

『そうか、それなら良かった…。悪いんだが、今日は帰れそうにないんだ』

ルヴィアさんは、心底申し訳なさそうに言った。

「…そうなんですか」

『済まん。急に…ちょっと、揉め事が起きてな。今日と…それから多分明日も、帰れないと思う』

「!」

…今日だけじゃなく、明日も?

一体、何が起きたと言うのか。

『ごめんな、フューニャ…』

ルヴィアさんの申し訳なさそうなことと言ったら、こちらが気の毒になるほどだった。

かく言う私も、落胆を抑えるのに必死だった。

「…明後日は、帰ってこれるんですか?」

『そのつもりではいるけど…。分からない』

「…」

ルヴィアさんは『青薔薇連合会』の準幹部。その彼が、何日も家に帰れないほどの一大事。

…きっと、何か良くないことが起きたのだ。

「…大丈夫なんですか?何か…危険なことがあったんじゃ」

『心配するな、フューニャ。大丈夫だから』

大丈夫と言われても…ちっとも安心出来なかった。

ルヴィアさんは、電話を早く終わらせようと急いているようだった。それだけ忙しいのだ。

そんな中で、私にちゃんと連絡を入れてくれた。

だったら、私が我が儘を言うことは出来ない。

「…分かりました。気を付けてくださいね」

『あぁ…。フューニャもな』

私も?

『本当にごめん。この埋め合わせは必ずするから。…それじゃ』

「…はい…」

それで通話は切れた。

…ルヴィアさん、今日…今日も明日も、帰ってこないんだ。

「…」

私は、出したばかりの調理道具を棚に戻した。

ルヴィアさんが帰ってこないなら、料理なんてやる気にはなれない。

自分一人だけの為に料理をすると思ったら、途端に酷く億劫になった。

…面倒だから、トーストを齧るだけで良いや。

ルヴィアさんは、私をまめで完璧主義な人間だと思っているようだが。

それは、ルヴィアさんの為だからそう出来るだけのことで。

彼の為でないのなら、自分の為には何もする気になれないのだ。

それよりも私は、ルヴィアさんのことが心配だった。

…嫌な予感がする。

窓の外の、今にも雨が降りそうな曇天を見つめながら。

どうかこの予感が外れて欲しいと、私は祈った。
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