こっから先ははじめてだから

「あ、いえ違うんです!飲み会は、私が言い出したわけじゃなくって」


震える拳を握りしめて、頑張って誤解を正そうとする。でも言葉はフェードアウトするかのように、小さく消えゆく。


はっきりとしない私を他所に、先輩が机の上に、ある物を置いた。


どこかで見たことのある、小さめの紙袋。それを先輩が、古馬都さんの方へと静かにスライドさせる。


「古馬都さん。これ、大したものじゃないですけど。お土産です。」

「え、えっ?何これ?!」

「小さめのグラスです。ちょっと前に小旅行に行ってきたので。」

「うっそ。憂君ってお土産とか、気遣える人だったの?!」

「…………」        

  
ああ。なるほど。。


あれは二人で酒蔵巡りに行った時に買った、ピンクと青の小さなグラスのセットだ。


もしかして私と一緒に使うために買ったんじゃないかと、私が勝手に思った夫婦《めおと》用グラス。


あの時、私の問いに、先輩がしっかりと応えを濁したのを覚えている。

『自分用に?』
『……いや?これは、ちょっとね。』


嘘が吐けないと思っていた先輩が、私に隠そうとした事実。
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