こっから先ははじめてだから

思わず肩がびくっと上がって。先輩がゆっくりと上目遣いで私をしっとり見るのだ。“いとをかし”がやって来た。

そんな狂おしくなる瞳で見たって、ハァーあかんですよ。

脈拍数と心拍数が刻まれるなか、先輩の唇がふふっと私の指を解放した。


「爽ちゃんの指の関節、甘いな。」

「か、かんせつ……。」

「第二関節って、一番曲がるとこよな。」

「た確かに!第一関節よりも、第二関節の溝の方が深いですもんねえ」

「爽ちゃんの関節の溝、食べちゃった。」

「しょ、詳細を言われるとっ、なんとも恥ずかしいです」  

「え?そう?」


先輩がレジ袋からワンカップのお酒を出して、ソファの前のテーブルに置く。

見れば『國盛《くにざかり》 にごり酒』で、透明なカップの下の方には白い濁り酒が沈殿している。早く透明に混ざりたいのか、白が渦を巻いて主張してくる。


「半分こする?」

「あ、いえ……。私は今日はもうやめとこうかなあって。」

「あ、そや。爽ちゃん病人やった。」

「でも楽しくって、体調のことなんて忘れちゃいます。」      

「え?ほんま?」

「ほんま、です。」


先輩に自然と笑顔を向ければ、先輩がぎゅっと眉根を寄せて、私の頭を撫でてきた。


「かわええ後輩で、たまらんなあ。」

「せ、せんぱいこそ。とってもかっこよくて優しい先輩で、良かったです!」

「ちょっと辿々しい社交辞令。」

「ち、違いますよ?」 


先輩の撫でていた手が、私の肩に降りてきて。ぐっと掴まれて、あっという間に私の頭が先輩の太ももに寝かされた。

ソファで膝枕状態。

先輩の顔が真上にあって、後頭部だけが先輩の膝の温度を感じ取る。ちょっとだけ後頭部に嫉妬しそう。


「ななな、せせ、せせんぱいっ」

「もう、休んどき。俺は國盛で一息つくし。」

「それって先輩。飲みたいだけじゃないですか」

「ふふ。甘いチョコに釣られて、甘い國盛飲みたくなってしもた。」


ちょっと甘酒の風味もあるにごり酒。

先輩が沈殿した濁りを振って、透明が白へと馴染んでいく。白に染まったカップを先輩が私に見せびらかしてきて、ふふんと鼻を鳴らす。
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