こっから先ははじめてだから

ねえ先輩。お酒の力に頼ってもいいですか?


天井の蓋が、カポッと開いたような秋空。直近すぎる昨日の今日。


目的地は都内から約1時間半の酒蔵。東京から電車で、私たちは今、埼玉県へと向かっている。


埼玉は酒蔵の宝庫なんだよ。近所の酒屋しか行ったことないから、酒蔵は刈谷初体験。


「本当はな、1週間以上前から予約せなあかん酒蔵もあってん。でも昨日の夜電話したら、空きがあるから見学できますよって言ってくれてな、」

「色々手間取らせてしまってすみません!」

「俺が誘ったんやし。これぐらいのお詫びはさせてもらわんと」


“お詫び”の言葉で、なんのお詫びだったのかが思い出される。


先輩が私の初キスを奪ったお詫び……。


それは、帳消しにしてくださいねっていうお詫びってことですよね?忘れてって言ってましたもんね?

 
お詫びの真意をいちいち深読みしちゃう女って。めんどいよなあ。


27歳の初キスをさらりと流したい。そういう女になれたら、きっともっと人生楽しく生きられるんだろうなあ。


窓際に座る私が、窓の外に見える川を見つめる。


太陽の光に反射する水面上が、キラキラと光って見えるから何気なく「神秘」とつぶやいてしまう。


「え?なに?」


憂先輩が、横から「ん?」と私を覗き込んできた。


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