異世界から本物の聖女が召喚されたので、聖女見習いの幼女は不要のようです。 追放先でもふもふとパパに溺愛されているので、今更聖女になんてなりません!
 全身を震わせる程の怒りと後悔に苛まれている父親の姿を目にした娘は、自然と彼の頭部に手を伸ばしていた。

「いい子、いい子。パパは、何も悪くないよ」
「ロルティ……」
「わたしを迎えに来てくれて、本当にありがとう!」

 満面の笑みを浮かべて礼を告げれば、ジェナロは瞳を潤ませ彼女を強く抱きしめた。
 時折押し殺した嗚咽が聞こえてくるあたり、感動で泣いているところを見られたくなかったのかもしれない。

「もう。パパってば。泣き虫さんなんだから……」

 これではどちらが大人なんだか、わかったものではない。

 ロルティが呆れたように呟きながら何度も頭を撫でつけていれば、やがてガタンと大きな音とともに馬車が止まった。

「閣下。到着いたしました」

 出入り口の扉を外から何度かノックされたかと思えば、よく通る声が公爵家への到着を告げる。

「ああ。今行く」

 ジェナロは先程まで涙を流していたのが嘘のようにキリリとした硬く低い声で告げると、ゴシゴシと腕で目元を拭ってからロルティを抱き上げ馬車を降りた。

「むきゅ……」
「わぁ……! うさぎしゃん、見て! 大きなお家……!」

 公爵邸の前に降り立ったロルティは、胸元に抱きかかえるアンゴラウサギによく見えるように身体を持ち上げながら、上空を見上げた。
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