おれは“祓えない退魔師”
第二十話
しばらく進むと、通路が少し広くなり圧迫感が薄れた。士稀が、指先を高く掲げる。上から下まで、ゆっくりと光をかざす。天井が高い。開けた場所に出たようだ。
「……ここ、さっきよりマシじゃね?」
恐る恐る周りを見渡す。東間も士稀と同じように、指先ライト(霊力を使って指先に光を灯らせる)を発動した。辺りを探索している。光に照らされて、岩肌がぼんやりと浮かび上がる。その奥に、ぽつんと大きな岩があった。
「……なんかあるで」
東間が岩に近づき、光を照らす。俺たちもゆっくりと歩み寄って岩を観察した。岩の表面に、何枚もの封印の札が貼られている。札はボロボロで札に描かれた文字は消えかかっていた。
(これ、やばいだろ)
「これが封印されてるっちゅーやつか」
「封印の札に紛れて、校長の護符もここに貼り付けられてたりして」
「そんなわかりやすいとこにないやろ」
念のため、一枚づつ調べていると、一枚だけ”封印”と印されていない札があった。
「これかなぁ……?」
「いや、ちゃうやろ~」
「あまり近づくな」
「ぶぅぇっっ!ーーっっぐしょんーーー!!!!!」
俺のすさまじいくしゃみで、札がペロンと剥がれ、ひらひらと地面に落ちた。
「「「あ……」」」
「え……?」
地面に落ちた札は、じわりと黒く変色し、灰になって飛ばされていく。
(嫌な予感しかしないんだけど……)
バチンッ!!
どこかで、何かが弾ける音がした。次の瞬間、ゴゴゴゴ……と地面が震え始める。
「な、なに……!」
伊都が震える声を上げる。
岩の奥ーー暗闇の中から、ずるり、と何かが、這い出してくる。士稀と東間が光を掲げるとーー
「……え?」
目を疑った。それは、巨大な黒い“蜘蛛”だった。人の背丈を軽く超えるほどの大きさだ。8本の脚をぎちぎちと不気味に動かし、いくつもの目が、こちらを“見る”。
「……っ、冗談だろ……」
全身が総毛立つ。今までに感じたことのない禍々しい邪気が、じわじわと洞窟内に広がっていく。
(やばい、これは絶対やばいやつだ)
蜘蛛が、ぎち、と頭を傾けた。そして、ズルン、と前に出る。
「下がれ」
士稀が一歩前に出て手をかざす。シュッと刀が出現した。それを手に取り、構える。
(あいつ、戦う気かよ!?)
「東間、伊都を連れて下がれ」
「了解や」
東間が伊都の肩を引く。伊都は足がすくんでいるのか、その場に座り込んでしまった。
「神代、」
一瞬だけ、視線が合った。
「――戻って助けを呼べ」
「……え?」
思わず聞き返す。
「お前が一番足が速い。ここでの戦闘は無理だ」
「でも――」
「行け」
張りつめた、有無を言わせない士稀の声。後ろで、東間も続ける。
「祐くん、ここは任せてはよ行き」
「……っ」
「伊都! 何してんねん! しっかりせぇ!」
東間が伊都の腕を引っ張って立たせようとするが、力が入らないのか立とうとしない。
その瞬間ーー蜘蛛が、跳ねた。
「――来るぞ!!」
長い脚が、振り下ろされる。 東間が伊都をかばって前に出る。
ドンッ!!
「ぐっ……!」
東間が吹き飛ばされ、岩に叩きつけられる。
「東間!!」
士稀が動く。刀をふりかぶり、蜘蛛の脚に斬撃を加える。一瞬、蜘蛛が怯んだが、動きは止まらない。
「神代!! 早く行け!!」
叫び声が響く。
「行けー!」
足が、動かない。頭では分かってる。
(ここにいても、足手まといだって。俺じゃ、戦えないって)
「……っ」
悔しさを抑え込んで歯を食いしばる。
「……わかった」
背を向けて、全速力で走った。
(これでいい。これが正解だ)
後ろから、みんなが戦っている音が聞こえる。必死に抗っている叫び声。何かが激しくぶつかる音。
(……くそ)
速度が落ちる。
「……っ、くそ!!」
足が、止まる。振り返ると、遠くで誰かの悲鳴が聞こえた。
(置いていけるわけねぇだろ!!)