おれは“祓えない退魔師”
第三十三話
山の空気が、やけに重かった。
洞窟の前に立った瞬間、背筋にぞわりと嫌な感覚が走る。あの時と同じだ。いや、それ以上かもしれない。
(まだ、いる)
奥の奥で、確かに“あいつ”が息を潜めている。
完全には祓えていない。封じ込めているだけの、不安定な状態。
少しでも均衡が崩れれば、外に出てくる。
「特別試験の内容は単純じゃ」
校長がいつもの調子で笑う。
「洞窟内に封じられた妖を弱らせ、これに封じて持ち帰ること」
差し出されたのは、やよい先生特製の竹筒。
手のひらに収まるほどの大きさなのに、触れた瞬間、びりっと強い霊力を感じた。
「封印強化仕様よ。弱らせた状態なら、ちゃんと吸い込めるから安心してね」
にこやかに言うやよい先生。安心できる要素がひとつもない。
「制限時間は日没まで。それまでに戻れなければ失格」
鬼灯先生が淡々と告げる。
「なお――今回は教員の介入は最小限とする」
その一言で、空気が一段階冷えた。
(つまり、ほぼ自力でやれってことか)
隣で伊都が小さく息を呑む。
東間はいつも通りの余裕そうな笑顔だが、目だけが鋭い。
士稀は、冷静にまっすぐ洞窟を見据えている。
そして俺は、ぎゅっと拳を握る。
“お前は魂を無に還す存在だ”
校長室で告げられた言葉が頭をよぎる。
(また、消滅させちまったら……)
足がすくんで、鼓動が早くなる。
「祐くん」
振り向くと、伊都がこっちを見ていた。
「……一緒に、帰ろうね」
不安そうに笑うその顔に、胸が締めつけられる。
「大丈夫や。死ぬほどシミュレーションしたからな」
東間が軽く肩を叩いてくる。
「夢にまででてきたしな」
俺が苦笑すると、東間はにやっと笑った。
士稀がスッと前に出る。
「時間が惜しい。行くぞ」
その背中は、相変わらず迷いがない。でも、
(あいつ、一人で行こうとはしなかった)
ちゃんと、俺たちを待っている。それだけで、少しだけ呼吸が楽になる。ゆっくりと息を吸った。
(俺は……正直、めちゃくちゃ怖い。だけどーー)
震える足で一歩を踏み出した。
(逃げねぇって決めただろ)
「……行こうぜ」
声に出すと、不思議と震えは消えていた。四人で並んで、洞窟へ足を踏み入れる。ひやりとした空気が肌にまとわりつく。
暗闇の奥で――
“何か”が、確かにこちらを待っていた。
洞窟の前に立った瞬間、背筋にぞわりと嫌な感覚が走る。あの時と同じだ。いや、それ以上かもしれない。
(まだ、いる)
奥の奥で、確かに“あいつ”が息を潜めている。
完全には祓えていない。封じ込めているだけの、不安定な状態。
少しでも均衡が崩れれば、外に出てくる。
「特別試験の内容は単純じゃ」
校長がいつもの調子で笑う。
「洞窟内に封じられた妖を弱らせ、これに封じて持ち帰ること」
差し出されたのは、やよい先生特製の竹筒。
手のひらに収まるほどの大きさなのに、触れた瞬間、びりっと強い霊力を感じた。
「封印強化仕様よ。弱らせた状態なら、ちゃんと吸い込めるから安心してね」
にこやかに言うやよい先生。安心できる要素がひとつもない。
「制限時間は日没まで。それまでに戻れなければ失格」
鬼灯先生が淡々と告げる。
「なお――今回は教員の介入は最小限とする」
その一言で、空気が一段階冷えた。
(つまり、ほぼ自力でやれってことか)
隣で伊都が小さく息を呑む。
東間はいつも通りの余裕そうな笑顔だが、目だけが鋭い。
士稀は、冷静にまっすぐ洞窟を見据えている。
そして俺は、ぎゅっと拳を握る。
“お前は魂を無に還す存在だ”
校長室で告げられた言葉が頭をよぎる。
(また、消滅させちまったら……)
足がすくんで、鼓動が早くなる。
「祐くん」
振り向くと、伊都がこっちを見ていた。
「……一緒に、帰ろうね」
不安そうに笑うその顔に、胸が締めつけられる。
「大丈夫や。死ぬほどシミュレーションしたからな」
東間が軽く肩を叩いてくる。
「夢にまででてきたしな」
俺が苦笑すると、東間はにやっと笑った。
士稀がスッと前に出る。
「時間が惜しい。行くぞ」
その背中は、相変わらず迷いがない。でも、
(あいつ、一人で行こうとはしなかった)
ちゃんと、俺たちを待っている。それだけで、少しだけ呼吸が楽になる。ゆっくりと息を吸った。
(俺は……正直、めちゃくちゃ怖い。だけどーー)
震える足で一歩を踏み出した。
(逃げねぇって決めただろ)
「……行こうぜ」
声に出すと、不思議と震えは消えていた。四人で並んで、洞窟へ足を踏み入れる。ひやりとした空気が肌にまとわりつく。
暗闇の奥で――
“何か”が、確かにこちらを待っていた。