おれは“祓えない退魔師”

第三十六話

 試験が終わってから、数日が経った。

 あの洞窟は再び封印され、洞窟の入り口には"初さん”のための慰霊碑が建立された。風の噂では、灰崎先生が詐欺で儲けた金で建てたらしい。

 俺の特別試験の結果は、職員室で話し合われた末、校長の「楽しければ万事よし!」の一言で合格となった。

 (マジでこの学校大丈夫かよ……)

 つまり俺は、まだこの学校にいられるってこと。それはすごくありがたいことだけど。もし不合格になっていたとしても、俺には『間違ってもいい、失敗してもいい』という母さんの言葉があるから、しぶとく退魔師を目指すんだと思う。

 それにあの日、四人で”新しいやり方”をみつけたから、俺は俺のままでいいんだって思えた。

 放課後、伊都がコンを中庭で遊ばせたいと言って四人(+一匹)でやってきた。ここには季節の様々な種類の花が植えられている。今の時期は、バラやシャクヤク、ツツジやポピーが色鮮やかに咲いていた。用務員さんが丹精込めて世話をしているらしい。

 風がやわらかく通り抜ける中、俺は花壇の縁に腰かけてぼんやりと空を仰ぎ見ていた。

 「なぁ」

 俺は、不意にぽつりと口を開いた。

 「今回さ……俺、結局なんもできなかったな」

 蜘蛛を弱らせたのはみんなの連携。最後は伊都の召喚に助けられた。すると、

 「なに言うてんねん」

 東間が軽い調子で笑う。

 「祐くんがおらんかったら、あそこまで持ち込めてへんやろ」

 「そうだよ」

 伊都も、コンを撫でながらうなずく。

 「祐くんがいたから、ぼく、がんばろうって思えたし。彦兵衛産も初さんも、還すことができた」
 「……」

 なんて言ったらいいのかわからなくて言葉に詰まる。そのとき、

 「役割が違うだけだ」

 士稀が静かに言った。

 「全員が同じことをする必要はない」

 俺は士稀をまっすぐに見据える。

 「祐は祐、だ」

 相変わらず感情がよめない顔をしてるけど、声はとても柔らかかった。

 「え、ちょっと待って。今、聞き流しそうになったけどーー」

 士稀は不思議そうな顔をしている。

 「俺のこと祐って呼んだ?」

 士稀は少し間を置いてから、ふいっと顔をそらしてしまった。

 「呼んでいない」
 「ウソだー、呼んだじゃん」
 「聞き間違いだ」
 「呼んだだろ! 二回も!」

 不思議だ。まさか士稀とこんな風に話せる日がくるなんて思ってもいなかった。
 仲がいいわけじゃないのに、なんだか心地いい。これが”バディ”ってやつなのかもしれない。

 「……なぁ、士稀」

 俺は少し迷ってから、口を開いた。

 「俺さ、やっぱ退魔師になりたい」

 自分の力のこと、まだ受け止めきれてはいないけど——

 「退魔師になって、母さんみたいに、困っている人を助けたい」

 士稀はじっと、まっすぐに俺を見る。

 「なればいい……お前のやり方で」

 そして、ふっと空を見上げる。

 「もしもその時、俺が必要だったら……”バディ”としてちゃんと傍にいてやる」

 俺は固まってしまった。士稀が初めて、ちゃんと穏やかに笑ったから。

 「おぉ……ありがと……っつか、士稀、笑うとかわいいじゃん。もっと笑えばいいのに」
 「っ!? バカにしてるのか?」
 「は? ちげーよ! マジでさ、さっきめっちゃかわいかったからーー」

 士稀は怪訝な顔をしてそっぽを向いてしまった。

 (あれ? 俺、なんか変なこと言った?)

 「あの~」

 東間がそろそろと手を挙げる。

 「俺らそろそろしゃべってもええか?」

 伊都が、ぷふぁーと息を吐いた。さっきまで止めていたらしい。

 「ええ雰囲気やったから邪魔せんように空気になってたんやけど」
 「さ、さすがに、ちょっと、息苦しくなっちゃって……」

 東間は、かゆいかゆいと身体を掻く真似をして。伊都はぜぇぜぇと肩で息をしている。

 「ええ雰囲気?」
 「? どういうことだ?」

 士稀と二人ではてなマークを浮かべていると、東間と伊都は顔を見合わせて苦笑した。

 「無自覚やん」
 「まぁ、仲がいいのはいいことだよね」

 「「よくない!!」」

 「あ、ハモってる」

 「「よくないって言ってるだろ」」

 「ははっ、やっぱ一番おもろい組み合わせやったな!」

 がやがやと騒いでいる中にコンがひょこっと入ってきて、俺と士稀を囲んでぐるぐる回り始めた。

 「やっぱコンはかしこいな~」
 「うんうん、よくわかってるね~」

 「「だから、なにが!?」」

 ふわぁ~と風がふいて花びらが舞う。やさしくて甘い香りが俺たちを包む。

 空は青くて広くて、どこまでも続いている。

 (まだ、終わってねぇ)

 むしろ——ここからだ

 「俺は絶対、退魔師になる!」

 空に向かって手を掲げると、手のひらが熱くうずいた。
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