【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
 アンヌッカとライオネルの関係は、雇用主と雇用された人間だと思っている。
 毎日、一日の業務が終わるたびに、ここに訪れ活動の記録でもある日誌を提出していた。それは、アンヌッカがここにきた当初から変わらぬこと。
 ただ、変わったのはライオネルの態度、だろうか。
 あれほど古代文字に興味がない、魔法は好きではないと言っていた彼なのに、最近は古代文字クイズにも付き合ってくれる。むしろ、アンヌッカが日誌にそれを書き忘れると『今日のクイズはないのか?』と書かれるくらいだ。
「それで……今日は、どういったご用でしょうか?」
 アンヌッカは、イノンから地下書庫の魔導書の分類の仕事を言い渡された。各地区の魔塔から集められた魔導書だが、分類されていないものは乱雑に積み上げられていたのだ。
 それをおおざっぱに仕分け、さらに表紙と中身から魔法史だったり地理学だったりと分類していたところなのだが、とうてい一か月で終わる量だとは思えなかった。だからといって、その仕事が辛いとか嫌いとかそういうわけでもない。
 わけのわからない魔導書を目の前にすると、高い壁に阻まれたような気分になるものの、それを少しずつ読み解くことで、高い壁に穴を開けていくような気分になるのだ。
 そうやってこつこつと魔導書の分類をしていただけなのに、なぜか今日は、昼ご飯を食べたあと、ライオネルに呼び出された。
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