【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
 シンディが彼から言付けられたようで「マーレ少将に、何かした?」と不安げに言葉をかけてきた彼女の様子がまざまざと思い出される。
 だが、ライオネルに何かをしたとかそういった記憶は、アンヌッカにはいっさいない。いや、彼とのやりとりは日誌のみ。
「おまえに、読み解いてもらいたい魔導書がある」
 魔導書と言われ、アンヌッカはひくりと身体を震わせてしまった。ライオネル自ら、アンヌッカに魔導書の解読を依頼してくるとは思わなかったからだ。
 彼は根っからの魔法嫌い。古代文字嫌いの男で、それは研究部門にいる彼らからもしつこく聞かされていたし、アンヌッカも身をもって理解している。
 また、ライオネルは魔法研究部門をとりまとめていながらも、研究部門にいる彼らを疎ましく思っているとも。
 イノンがライオネルと話をするときに必要以上に緊張しているように見えたのは、それが原因なのだろう。
「マーレ少将からそうおっしゃるなんて、珍しいですね」
「……これは、他の者には見せられない、極秘の本だからな」
「極秘?」
 禁帯本よりも貴重な本なのだろうか。
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