【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
 華やかなウェディングドレスに身をつつむアンヌッカだが、晴れの舞台だというのに心の中はどんよりと曇っている。こんな形の結婚式であれば、誰だってそう思うだろう。
 アンヌッカの手を取り礼拝堂内に入場した父親でさえ憤っているのだ。
 そんななか拍手をしながら、アンヌッカに近づく人物がいる。
「おめでとう、アンヌッカ嬢。いや、マーレ夫人とお呼びしたほうがいいのか」
「ありがとうございます、王太子殿下……」
 怒りと呆れで満ちている内心を表に出さないように、アンヌッカはできるだけ極上の笑みを作ろうと努力する。
「このたびは、本当に申し訳ない。二人の門出を祝う日だというのに……」
「……いえ、こうなることはわかっておりましたから」
 アンヌッカの夫、ライオネルは国に忠誠を誓う軍人だ。そのため、国を統率する国王から命じられれば、いつでもどこにでもその身を向かわせる必要がある。
 数日前から、国の外れに魔獣が出現したという話は耳に届いていた。そうなれば国は軍を派遣し、魔獣を討伐する。
 その討伐に駆り出されたのが、アンヌッカの夫なる人物で、花婿のライオネルであった。
 結婚式と魔獣討伐。
 それを天秤にかけた結果、ライオネルは魔獣討伐を選んだのだろう。
 人の命や生活がかかっているだけに仕方のないことだと思っているが、何もそれを結婚式当日の朝に伝えてくるのはいかがなものか。
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