【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
 ドレスの着付けの途中だったアンヌッカは、そのまま着付けを続けるように使用人へと命じた。どうせ結婚式なんて一回やってしまえば終わり。
 結婚披露パーティーは別の日に行うこともあり、結婚式への参列者の招待は必要最小限に絞った。それも功を奏したのかもしれない。
 そして花婿側のライオネルもそれは同様だったようで、彼側の参列者は護衛を引き連れた目の前のユースタス王太子のみである。
(この調子では、これからの披露パーティーもなくなりそうね……)
 それよりも、顔を真っ赤にして怒っている父と兄のほうが心配だ。彼らは、この結婚には反対だった。
 だけど、国王からの勅命というのもあり、断ることはできなかった。
 ――この結婚に愛など存在しない。俺から愛されようなどと思うな。余計なことはしなくていい。
 結婚手続きのための書類と共に送られてきたライオネルからの手紙には、そう書かれていた。むしろ手紙というよりは指令書なのではと思えてしまうような、淡々とした文面。
(だから、この結婚はお互いにとって義務のようなもの)
 アンヌッカはきゅっと唇を引き締める。
 ユースタスは満足そうに微笑むと、護衛を連れて外に出ていった。アンヌッカがこの結婚を受け入れたかどうか、それを確認するのが目的だったにちがいない。
「アンヌッカ……」
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