【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
「お父様、お兄様。わたしは自分の意思でこの結婚を受け入れるのです。ですから、そのようなことをおっしゃらないでください」
アンヌッカも何度、二人をなだめたかもわからない。
「だがな、本当にいいのか?」
書類にサインをしようとペンを握りしめるアンヌッカに向かって、アリスタは最後の通告でもするかのように悲壮な表情を浮かべている。
「はい。わたしが自分で決めたことです。お父様からもお兄様からも、無理強いされたものではございませんから」
「だけど――」
「あなた。往生際が悪いですよ。アンヌッカ本人がこう言っているのですから、私たちは彼女を支えるべきでは?」
マーカスが言いかけようとしたところに割って入ったのは、彼女の妻であるプリシラだ。アンヌッカから見れば義理の姉。
今では女主人として家のことを取り仕切るとともに、男手だけでは気がつかないような細やかな配慮を、この魔法研究所でも見せている。そのため、メリネ魔法研究所の裏の所長はこのプリシラではないかと、まことしやかにささやかれている。
「アン? 私のほうからも確認するわ。あなた、この縁談を受け入れて後悔はしないわね? あのとき、家族に言われたから引き受けたとか、そんなふうにあとになって逃げないって誓えるわね?」
「はい」
さすが裏所長なだけあるプリシラだ。その言葉の一つ一つに説得力があり、有無を言わさぬ迫力がある。
アンヌッカも何度、二人をなだめたかもわからない。
「だがな、本当にいいのか?」
書類にサインをしようとペンを握りしめるアンヌッカに向かって、アリスタは最後の通告でもするかのように悲壮な表情を浮かべている。
「はい。わたしが自分で決めたことです。お父様からもお兄様からも、無理強いされたものではございませんから」
「だけど――」
「あなた。往生際が悪いですよ。アンヌッカ本人がこう言っているのですから、私たちは彼女を支えるべきでは?」
マーカスが言いかけようとしたところに割って入ったのは、彼女の妻であるプリシラだ。アンヌッカから見れば義理の姉。
今では女主人として家のことを取り仕切るとともに、男手だけでは気がつかないような細やかな配慮を、この魔法研究所でも見せている。そのため、メリネ魔法研究所の裏の所長はこのプリシラではないかと、まことしやかにささやかれている。
「アン? 私のほうからも確認するわ。あなた、この縁談を受け入れて後悔はしないわね? あのとき、家族に言われたから引き受けたとか、そんなふうにあとになって逃げないって誓えるわね?」
「はい」
さすが裏所長なだけあるプリシラだ。その言葉の一つ一つに説得力があり、有無を言わさぬ迫力がある。