【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
 だがアンヌッカが返事をしたのはその迫力に負けたからではない。自分で考え、納得して出した答え。
「だったら、それにサインをしてしまいなさい。この人たちが、これ以上、うだうだと文句を言わないように」
「だが、アン――」
「しっ」
 何かを言いかけようとしたマーカスをプリシラが制したため、ほっと息を吐いたアンヌッカは書類にサインをした。
「せっかくアンヌッカが心を決めたというのに、あなたたちに任せたらこの書類を葬り去りそうね。これは、私が責任を持って提出いたします」
 そう言ったプリシラの言葉がきっちりと守られたと証明できたのは、それからおよそ十日後の昼下がり。
 アリスタの手元に、アンヌッカとライオネルの婚約が認められたという国王のサイン入りの証明書が届いたからだ。それと共に、ライオネルからの手紙も同封されていた。
 つまりこの証明書は、国王からライオネルを経由して届けられたもの。
「なんて書いてあるんだ?」
 マーカスがこの縁談に乗り気でないのは、アンヌッカもわかっている。だから、ライオネルからの手紙が気になるのだろう。
「あなた。他人の恋文をのぞくものではありません」
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