【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
「あの人、今日は来るのかしら?」
「あの人、ですか?」
「そう。昨夜の……」
「あぁ、あの失礼なご婦人ですね」
 ヘレナのその言い方も失礼ではないのかと思ったアンヌッカだが、そう言いたくなる気持ちもわかる。ヘレナがアンヌッカの気持ちを代弁してくれるから、心の平穏が保たれるわけだ。
 ただ、この屋敷についてはアンヌッカにはさっぱりとわからない。だから、昨日の彼女の態度がいくら気に食わないとしても、そこは我慢して教えを乞うしかないだろう。
「まぁ。これから起こるかわからないようなことを心配しても、仕方ないわね。まずは、朝食にしましょう」
「はい」
 人が住んでいるかわからないような屋敷に用意された食料。となれば、これはアンヌッカのために準備されたものだろうと勝手に解釈して、食事の用意に取りかかる。
 厨房はこぢんまりとしているものの、不自由はない。火をつける魔法具もあるし、オーブンや湯沸かし魔法具の他にも、料理を簡単にあたためることのできる魔法具まである。
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