【電子書籍化】出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?
 父親に名を呼ばれ、はっと顔を上げる。
「綺麗だよ、母さんにも見せたかった」
 父親の隣には、兄のマーカスとその妻プリシラも困惑した表情で立っていた。
「ありがとうございます、お父様」
「だから僕は最初から反対だったんだ」
「しっ。あなた、誰に聞かれているかわかりませんよ」
 ぷんすかと怒りの感情を露わにするマーカスをプリシラが制す。
「アンももっと怒ったほうがいい。文句の一つや二つ、アレに言ってやればいいんだ」
 そう言われても、アンヌッカとしては怒りよりもあきれている気持ちのほうが大きい。
「せっかくの晴れの日なのですよ、あなた。アンヌッカ、これから美味しいものでも食べましょうね」
 マーカスを宥めながらも、アンヌッカへの気遣いを見せるプリシラには頭があがらない。
 アンヌッカは、父親と並んで外へ出た。
 空は憎らしいほど眩しく、まさしく晴れの日にふさわしい空だった。
< 4 / 237 >

この作品をシェア

pagetop