🍶 夢織旅 🍶 ~三代続く小さな酒屋の愛と絆と感謝の物語~
3
「オレンジへ行ってみない?」
突然の誘いに醸は戸惑った。
「オレンジに行くって……」
ピンと来なかったので黙っていると、「ロサンゼルスの南にオレンジ郡という所があって、その中にオレンジ市があるんだって」と幸恵が笑った。
しかし、オレンジ郡とかオレンジ市とか言われてもさっぱりわからなかった。それでも、「とにかく行ってみましょう」と腕を取られて早く支度をするように促されたので、とにかく従うことにした。
翌日、長距離バスに乗ってロサンゼルスに着いたのは午後6時を過ぎていた。休憩を入れながらではあったが、10時間近くもバスに乗っていたことになる。さすがに疲れたので、ハンバーガーで簡単に夕食を済ませたあと、店の近くにあるモーテルに宿泊した。
朝起きると、前日の曇り空と違って晴れ渡り、窓から見える空には雲一つなかった。疲れを吹き飛ばすような青空だった。よし、と気合を入れて、昨夜と同じ店でハンバーガーを食べて、オレンジ市行きのバスに乗った。
1時間ほどで到着した。古い家並みが残るこじんまりとしたオレンジ市は、サンフランシスコやロサンゼルスと違って時間がゆっくりと流れているように感じられたが、フリー・マーケット(蚤の市)だけは賑やかで、掘り出し物を見つけようとする人たちでごった返していた。醸と幸恵は色々な店を覗いては、冷やかしながら店の人との駆け引きを楽しんだ。
人混みに疲れてきたので近くの公園をのんびりと散歩していると、突き抜けたところに色鮮やかな外壁の店が並ぶ通りが見えてきた。ちょっとした飲食店街だろうか、歩いていると、突然幸恵が立ち止まって、「このカフェにしない?」と店の看板を指差した。
「エル・ソル・イ・ラ・ルナ。太陽と月。何かいい感じ」
「そうだね。入ってみようか」
「うん」
幸恵は足取り軽やかにドアを開け、「オラ」とひと声かけて店の中に入った。
中年らしき小太りの女性がとびっきりの笑顔で迎えてくれた。そして、どこでもどうぞ、というように店内のあちこちに掌を向けたので、幸恵は窓際の明るい席を選んで椅子に座った。
醸が向かい側に座ると、幸恵が隣のテーブルに視線を移した。すると、あれと同じものにしない? と目が語ったので、いいね、と目で返すと、幸恵が手を上げてお店の人を呼んだ。
隣のテーブルの料理は『ケサディラ』で、メキシコ風のピザだという。トルティーヤと呼ばれる薄焼きのパンを折りたたんだ中に半熟のスクランブルエッグや玉ねぎ、マッシュルームなどの野菜が入っていて、それを緑色のソースとサワークリームをつけて食べるのだという。
注文すると、それほどの間を置かずにケサディラとコーラが運ばれてきた。カットされたものをソースに付けて口に運ぶと、思わず親指を立ててしまった。
「いけるね」
「おいしい」
ニコッと笑った幸恵の幸せそうな表情が目に入ったのか、隣のテーブルに座る人が親指を立ててウインクをした。すると、お店の人も親指を立てて笑ったので、醸も同じ動作で幸恵に戻した。
「ありがとう」
少しはにかんだ様子の幸恵が笑みを浮かべて頷いた。
「オレンジへ行ってみない?」
突然の誘いに醸は戸惑った。
「オレンジに行くって……」
ピンと来なかったので黙っていると、「ロサンゼルスの南にオレンジ郡という所があって、その中にオレンジ市があるんだって」と幸恵が笑った。
しかし、オレンジ郡とかオレンジ市とか言われてもさっぱりわからなかった。それでも、「とにかく行ってみましょう」と腕を取られて早く支度をするように促されたので、とにかく従うことにした。
翌日、長距離バスに乗ってロサンゼルスに着いたのは午後6時を過ぎていた。休憩を入れながらではあったが、10時間近くもバスに乗っていたことになる。さすがに疲れたので、ハンバーガーで簡単に夕食を済ませたあと、店の近くにあるモーテルに宿泊した。
朝起きると、前日の曇り空と違って晴れ渡り、窓から見える空には雲一つなかった。疲れを吹き飛ばすような青空だった。よし、と気合を入れて、昨夜と同じ店でハンバーガーを食べて、オレンジ市行きのバスに乗った。
1時間ほどで到着した。古い家並みが残るこじんまりとしたオレンジ市は、サンフランシスコやロサンゼルスと違って時間がゆっくりと流れているように感じられたが、フリー・マーケット(蚤の市)だけは賑やかで、掘り出し物を見つけようとする人たちでごった返していた。醸と幸恵は色々な店を覗いては、冷やかしながら店の人との駆け引きを楽しんだ。
人混みに疲れてきたので近くの公園をのんびりと散歩していると、突き抜けたところに色鮮やかな外壁の店が並ぶ通りが見えてきた。ちょっとした飲食店街だろうか、歩いていると、突然幸恵が立ち止まって、「このカフェにしない?」と店の看板を指差した。
「エル・ソル・イ・ラ・ルナ。太陽と月。何かいい感じ」
「そうだね。入ってみようか」
「うん」
幸恵は足取り軽やかにドアを開け、「オラ」とひと声かけて店の中に入った。
中年らしき小太りの女性がとびっきりの笑顔で迎えてくれた。そして、どこでもどうぞ、というように店内のあちこちに掌を向けたので、幸恵は窓際の明るい席を選んで椅子に座った。
醸が向かい側に座ると、幸恵が隣のテーブルに視線を移した。すると、あれと同じものにしない? と目が語ったので、いいね、と目で返すと、幸恵が手を上げてお店の人を呼んだ。
隣のテーブルの料理は『ケサディラ』で、メキシコ風のピザだという。トルティーヤと呼ばれる薄焼きのパンを折りたたんだ中に半熟のスクランブルエッグや玉ねぎ、マッシュルームなどの野菜が入っていて、それを緑色のソースとサワークリームをつけて食べるのだという。
注文すると、それほどの間を置かずにケサディラとコーラが運ばれてきた。カットされたものをソースに付けて口に運ぶと、思わず親指を立ててしまった。
「いけるね」
「おいしい」
ニコッと笑った幸恵の幸せそうな表情が目に入ったのか、隣のテーブルに座る人が親指を立ててウインクをした。すると、お店の人も親指を立てて笑ったので、醸も同じ動作で幸恵に戻した。
「ありがとう」
少しはにかんだ様子の幸恵が笑みを浮かべて頷いた。