【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
 そういう俺も、隣の女のことが気になりすぎて、映画の内容が全く頭に入ってこなかった。

 くそっ! せっかく楽しみにしていたのに。

 二時間半あった映画は、前評判通り感動的なものだった。が……。
 いつもならこみ上げてくる感動や陶酔感はないに等しかった。

 エンドロールが終わる頃には、シアター内のほとんどの客が退場していた。遅い時間だから、電車の時間もあるのだろう。

 今日の営業はこれで終わりだ。まだ観客が残っている状態のまま、シアター内の清掃が始まっていた。

 俺もそろそろ退散だ。
 隣の女は、泣き止みこそしたが、一向に立つ気配がない。

 よく考えてみれば、泣きはらした顔で出ていくのが嫌だったのだろう。

 まあ、俺には関係のないことだ。
 二時間以上も隣の席で泣き続けるところを見たとはいえ、全くの赤の他人なのだから。

 そうは思ったが、やはりどうしてもその女が気になった。
 俺は先にシアターを出て、その女が出てくるのを待った。
 案の定、最後に出てきた彼女の後を、こっそり追う。
 女は映画館の隣のビルにあるワインバーの置き看板を穴が開くほど覗き込み、中へと入っていった。

 待ち合わせか?
 それとも一人で?

 俺は同じようにその看板の前でしばらく立ち止まった。入ったことはないが、なかなか良さそうな店だ。

 看板に描かれているチョークアートや、おすすめワインのセレクトを見ただけで、店の雰囲気が伝わってくる。

 どうする? 入る?
 
 いや、俺には何の関係もない女だ、としばし逡巡する。

 しかし……仕事を終えて何も口にすることなく映画館へ滑り込み、この時間になった。
 腹が減っているし、喉も乾いている。

 そうだ、腹を満たすだけだ。
 元々俺は女性に興味がない。
 もちろん男に興味があるわけではないが、恋愛とは距離を置いていた。だからあの女に興味があるわけでもない。ただ腹が減っているだけ。

 ……そう自分に言い聞かせ、俺はワインバーへと入っていった。
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