【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
「叶恋はここで何しているの?」

「私は脳外科の医局秘書なの。といっても今週の月曜日からお世話になっていて、まだ一週間も経ってないんだけど」

「秘書かー。あ、だからさっきの森下先生とのやり取りなんだ」

「うん、そう。莉久くんは脳外のお医者さん?」

 あれ? ボードに名前あったっけ?

「俺は未だ初期研修医2年目。脳外にはローテーションで来ていて、いずれは形成外科に進むつもりだ」

「そっか。そりゃそうだよね」

「叶恋、連絡先教えてよ。まだまだ話したいことがいっぱいあるし、今度飲みに行こう」

「え、うん……」

 飲みに……という言葉に、ここのところ続いた失態を思い出す。

「どうしたんだ?」

「い、いや、なんでもない。あ、連絡先ね」

 そう言って、スマホを取り出したところで「お前、また飲むつもりか?」という声がした。

「汐宮先生!」

「少しは懲りたと思ったんだが」

 ひゃっ! その通りです。
 すみません、すみません! 
 やっぱりお酒はダメですよね!

「アハハ…………の、飲みませんよ?」

「また担がれたくなければやめとけ」

「う……。ごめん莉久くん。私、アルコールはちょっと……」

「……そうなのか。じゃあ食事でも」

「おい、研修医、お前まだ回診の途中なんじゃないのか?」

「いえ、それは森下先生が戻られてから――」

 とそこで、当の森下先生が帰ってきた。

「お待たせしたね!
伊原さん、これ書留速達でお願いするよ」

「あ、はい! じゃあ急いで行ってきますね」

 病院内の郵便局は4時に閉まってしまうのだ。
 急がなければいけない。

「あの、莉久くんごめんなさい。また今度ね」

 時間がギリギリなの、と説明する暇も惜しいほど、時間が迫っている。

 また話をする機会はいくらでもあるだろうと思い、私は足早にその場を去った。
 
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