【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
 週末になり、医局秘書の仕事にも少しずつ慣れてきた。
 毎日3時の院内回りで今日も地下1階へ郵便物を取りに行くと、脳外科用郵便受けに速達が届いていた。

 菜々ちゃんに確認の電話を入れると、病棟まで届けたほうがいいという。

 私はその足で、脳外科病棟がある8階東に上がっていった。
 
「すみません、森下先生はいらっしゃいますか? 速達を届けに来ました」

「ああ、回診に行ってるわ。預かっておこうか?」

 ナースステーションにいる病棟看護師さんが気前よく受け答えしてくれる。でも、できれば確実に手渡したい。

「お急ぎのようでしたので探してみます」

「ならそっちの奥の廊下から探してみて」

「ありがとうございます!」

 看護師さんの言葉通りに奥の廊下を進むと、30代半ばの男性医師と、若い医師が歩いてきた。初日に年齢を聞かれたドクターだ。

 スクラブの胸ポケットに付けられたネームフォルダーを見ると【森下】と書かれている。間違いない。

「お疲れ様です。森下先生に速達が届いていたのでお持ちしました」

「ああ、ありがとう! 助かったよ。悪いけど、これ急ぎで返信を出さないといけないんだ。すぐに記入するから、郵便局に出してきてくれないか?」

「かしこまりました。じゃあ談話室のあたりでお待ちしています」

 良かった。看護師さんに預けていたら郵便局に行けないところだった。
 私は邪魔にならないよう、談話室へ向かった。

「叶恋? 叶恋じゃないのか?」

「え?」

 森下先生の隣にいた若い医師が話しかけてきた。

「まさかこんなところで会えると思わなかったよ」

「あの……?」

 誰だろう。若いお医者さんに知り合いはいないはず。でも、この人どこかで……。

「莉久だよ。大迫莉久。同じ事務所だった」

「……! 莉久くん? うそっ、本物!?」

 大迫莉久は小さい頃所属していた芸能事務所の同期だ。
 私がクッキングアイドルのオーデイションに合格したちょうど同じ時期に、朝ドラのオーディションに合格し、俳優デビューを果たしていた。
 その後もCMや大河に出演したり、きっと将来は名俳優になるのだろうと思っていたのだが、まさかお医者さんになっていたとは。
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