【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
「私は……自分の家庭環境が恋愛に適していないことを理解しています」
「え?」
「お母様から聞かれていませんか?」
「……」
私は京香さんの目をまっすぐに見つめながら言った。
同居しているのだ。
私の家庭事情を聞いているかもしれないと思ったけれど、どうやらお母様は話していなかったようだ。
では、あえて話す必要もないだろう。
「……でも汐宮先生は、何の問題もないように接してくださるので、私はそんなところを人としてとても尊敬していますし、……好きなんだと思います」
言ってしまった……!
口に出したことは全部事実だけど、最後のは言うべきじゃなかったかもしれない。
私たちは偽恋人関係なのに、これは頼まれた以上のことをしてしまったかも。
でも、あなたは知らないだろうけど、と含みを持たせた京香さんの言い方がどうしても嫌だったのだ。
少なくとも、今現在付き合っている彼女に言う言葉じゃないと思うから。
「叶恋」
「……! 汐宮先生……」
「永真……」
今日も濃紺のスクラブ姿にシールドグラスをかけた汐宮先生が、私の肩に手を置いた。
どこから現れたのだろう。
ひょっとして、今の聞かれていたんじゃ……!
どうしよう、余計なことをするなって言われたら……。
相変わらずシールドグラスが反射して表情が見えにくい。
でも、一瞬口角が上がったような気がしたから、多分気分を害しては……ない?
「ここにいたのか。今医局に寄ったら、院内回りに出ていると言われた」
「あ、はい。何か……?」
「今朝、忘れ物を見つけたんだ。ピアス……」
「あ! やっぱり先生のところに落としてたんですね」
あの食事会の日、家に帰ると右耳からお気に入りのピアスが消えていた。いつの間にか落としてしまったことに、ショックを受けていたのだ。
「ほら、寝室に落ちてた。ベッドの足もとで死角になっていて気づかなかったようだ」
「良かったー。ずっと探していたんです。これお気に入りだったから」
寝室で着替えさせてもらった時に落としたのだろう。
「永真!」
あ、そうだ。京香さんとお話し中だったんだ。
「私の存在は無視ってわけ?」
「……特に話すこともないだろう?」
「なにそれ……」
「俺は身内にはいつもこんな感じだ。兄嫁だからと言って気を遣うつもりはない」
「……」
ムッとしている京香さん。
これが塩対応……!
この状況はあまりにもいたたまれない。
間にいる私にどうしろと……。
「きょ、京香さんは、お見舞いに来られたそうです。
お友達が出産されたそうで」
「……そうなの。佐野美鈴、覚えてる?
昨日初めての子が生まれたの」
「佐野……ああ、先山の嫁さんか。
そうか、それはめでたいな」
「そうだ! あなたも今時間があったら一緒に産科病棟へ行く?
私が病室に着いたら先山君も顔を出すって言ってたの。
解剖のメンバーが集まるのは久しぶりでしょう?」
「いや、俺はいい」
「でも、あんなに仲が良かったじゃない。
少しだけでも――」
「行くとしても、俺は別で顔を出すよ」
「永真……」
汐宮先生のきっぱりと言い切る口調に、京香さんが傷ついた顔をする。
良かれと思ってお友達の話を出したのは、逆効果だったようだ。
「悪いが時間切れだ。俺は病棟に戻る。
……叶恋、川崎がメッセージを送ったと言っていたが」
「え? あ、本当だ」
スマホを見ると、7分前に受信していた。
病棟にいる森下先生から書類を預かってきてほしいと。
「行くぞ」
「あ、はい! 京香さん、病棟に行かなくてはいけないのでこれで失礼します」
「……ええ。じゃあまた……」
悲し気な京香さんを残して去るのは少し心が引けたが、莉久くんのこともあり、思いがけず時間を取ってしまっていた。
私は汐宮先生の後ろを追うように、職員用エレベーターへと向かった。
◇ ◇ ◇
「え?」
「お母様から聞かれていませんか?」
「……」
私は京香さんの目をまっすぐに見つめながら言った。
同居しているのだ。
私の家庭事情を聞いているかもしれないと思ったけれど、どうやらお母様は話していなかったようだ。
では、あえて話す必要もないだろう。
「……でも汐宮先生は、何の問題もないように接してくださるので、私はそんなところを人としてとても尊敬していますし、……好きなんだと思います」
言ってしまった……!
口に出したことは全部事実だけど、最後のは言うべきじゃなかったかもしれない。
私たちは偽恋人関係なのに、これは頼まれた以上のことをしてしまったかも。
でも、あなたは知らないだろうけど、と含みを持たせた京香さんの言い方がどうしても嫌だったのだ。
少なくとも、今現在付き合っている彼女に言う言葉じゃないと思うから。
「叶恋」
「……! 汐宮先生……」
「永真……」
今日も濃紺のスクラブ姿にシールドグラスをかけた汐宮先生が、私の肩に手を置いた。
どこから現れたのだろう。
ひょっとして、今の聞かれていたんじゃ……!
どうしよう、余計なことをするなって言われたら……。
相変わらずシールドグラスが反射して表情が見えにくい。
でも、一瞬口角が上がったような気がしたから、多分気分を害しては……ない?
「ここにいたのか。今医局に寄ったら、院内回りに出ていると言われた」
「あ、はい。何か……?」
「今朝、忘れ物を見つけたんだ。ピアス……」
「あ! やっぱり先生のところに落としてたんですね」
あの食事会の日、家に帰ると右耳からお気に入りのピアスが消えていた。いつの間にか落としてしまったことに、ショックを受けていたのだ。
「ほら、寝室に落ちてた。ベッドの足もとで死角になっていて気づかなかったようだ」
「良かったー。ずっと探していたんです。これお気に入りだったから」
寝室で着替えさせてもらった時に落としたのだろう。
「永真!」
あ、そうだ。京香さんとお話し中だったんだ。
「私の存在は無視ってわけ?」
「……特に話すこともないだろう?」
「なにそれ……」
「俺は身内にはいつもこんな感じだ。兄嫁だからと言って気を遣うつもりはない」
「……」
ムッとしている京香さん。
これが塩対応……!
この状況はあまりにもいたたまれない。
間にいる私にどうしろと……。
「きょ、京香さんは、お見舞いに来られたそうです。
お友達が出産されたそうで」
「……そうなの。佐野美鈴、覚えてる?
昨日初めての子が生まれたの」
「佐野……ああ、先山の嫁さんか。
そうか、それはめでたいな」
「そうだ! あなたも今時間があったら一緒に産科病棟へ行く?
私が病室に着いたら先山君も顔を出すって言ってたの。
解剖のメンバーが集まるのは久しぶりでしょう?」
「いや、俺はいい」
「でも、あんなに仲が良かったじゃない。
少しだけでも――」
「行くとしても、俺は別で顔を出すよ」
「永真……」
汐宮先生のきっぱりと言い切る口調に、京香さんが傷ついた顔をする。
良かれと思ってお友達の話を出したのは、逆効果だったようだ。
「悪いが時間切れだ。俺は病棟に戻る。
……叶恋、川崎がメッセージを送ったと言っていたが」
「え? あ、本当だ」
スマホを見ると、7分前に受信していた。
病棟にいる森下先生から書類を預かってきてほしいと。
「行くぞ」
「あ、はい! 京香さん、病棟に行かなくてはいけないのでこれで失礼します」
「……ええ。じゃあまた……」
悲し気な京香さんを残して去るのは少し心が引けたが、莉久くんのこともあり、思いがけず時間を取ってしまっていた。
私は汐宮先生の後ろを追うように、職員用エレベーターへと向かった。
◇ ◇ ◇