【おまけ追加】塩対応の汐宮先生は新人医局秘書にだけ甘くとける
 ピアスを渡しに医局へ行くと、叶恋は院内回りに出ていた。
 また叶恋に会いに来たのか、と川崎に言われたが、その通りだったので、ただ一言「そうだ」と答えた。

 事実をそのまま答えただけなのに、なぜかニヤニヤと気持ち悪い笑いを返された。

 外来で見つかるだろうか……そう思いながら病院へ渡ると、一階のエスカレーター付近で叶恋の後姿を見つけた。
 最悪なことになぜか京香と喋っている。
 どういうことだ? なぜ京香がここにいる?
 

 卒業と同時に結婚し、家庭を優先するためにと比較的楽な眼科を専攻した京香は、初期研修の最中に妊娠出産し、今は汐宮総合病院の眼科で週2回、2コマだけ診察を担当している。
 つまりパート感覚でほとんど働いていない状況だ。

 まあ、一真がまだまだ手のかかる頃だ。仕方ないことなのだろう。

 だが時間があるからといって大学病院まで来る理由がわからない。
 まさか叶恋に何か余計なことを吹き込みに来たのか?

 慌てて叶恋の後ろへ近づくと、二人の会話が聞こえてきた。

「私は……自分の家庭環境が恋愛に適していないことを理解しています」

「え?」

「お母様から聞かれていませんか?」

「……」

「……でも汐宮先生は、何の問題もないように接してくださるので、私はそんなところを人としてとても尊敬していますし、……好き、なんだと思います」

「!」

 やばい……。
 こ、これはきっと、俺のいないところでもちゃんと偽恋人の役割を果たしてくれていたのだろう。
 おそらくそうなのだろう。
 そうだ、叶恋は律儀な性格なんだ。
 落ち着け!
 ドクドクと波打つ俺の心臓に向かって、そう命じる。

 だが、たまたま聞いてしまった『尊敬している』『好きなんだと思う』という言葉は、まるで叶恋が本気で言っているかのような気がした。

 それが本気なら……!

 叶恋の言ってくれた言葉が、俺の心に深く突き刺さった。
 ずっと凍り付いていた心が、叶恋に出会ってから一気に溶けだしたのを感じる。

 どうやら京香によって傷つけられた俺の心は、まだ生きていたらしい――


◇ ◇ ◇
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