〜Midnight Eden〜 episode2.【蛍狩】
 調布に到着した二人は足早に四角い建物の軒下に潜り込んだ。幽霊屋敷と化した製紙会社の敷地には、一足先に到着した深沢班の刑事と鑑識係が入り乱れている。

ここへ最初に捜査に入った真紀と杉浦が、電源の入っていない三つのスマートフォンを押収している。スマホはそれぞれ被害者三人の物だ。

 光が自殺する直前まで所持していた川島蛍のスマートフォンには、[ホタル]名義のトークアプリが存在していた。

川島は蛍の死後も娘の携帯電話の契約を続けていた。未成年者の携帯電話の契約は保護者名義であり、使用者は蛍でも契約者は父親の川島だ。

 使われないスマホの料金を払い続ける川島の心情は定かではない。それを利用した光は[ホタル]として被害者と連絡を取っていた。

 第二の被害者、大久保義人のツイッターに書き込まれた[明日ホタルに会える]は、光との約束を意味していたと思われる。

『川島には大久保殺しのアリバイがある。それに犯行に使用したナイフとゴム手袋も光の指紋しかでなかった』
「川島の頸部の傷と被害者三人の傷はナイフの角度や力加減が一致してる。あと母親もね。母親と四人の男を殺したのは光で間違いない」

 豊北団地四号棟の二○三号室からは西村光の母親の遺体も見つかっている。母親の死亡推定時刻は、川島が殺される2時間前。

光は母親を殺害後に川島宅を訪問。川島と性交渉した後、川島も殺害した。

 川島殺害に至った光の動機はわからない。共犯関係の仲間割れか、口封じ?
そのどちらにも思えないのはどうしてだろう。

 地下に続く階段を降りると先輩の多田真利子刑事の姿が見えた。昼間でも薄暗い地下室は、警察が持ち込んだ照明器具のおかげで地上と同じ明るさを保っている。

「多田さん、お疲れ様です」
「お疲れ様。神田さんが言っていた西村光のスマホは見つからなかったよ」
「そうですか……」

豊北団地の川島の自宅にも光の自宅にも、光自身のスマートフォンは発見できなかった。

『光は自分のスマホを処分したんだろうな。でも処分するならガイシャと連絡取るために使ってた蛍のスマホの方だと思うんだけど、なんで捨てるのは自分のスマホだったんだ?』
「きっと見られて困るデータが入っていたのよ。位置情報も追えないから、SIMカードが抜かれてどこかに放置されているか、本体自体が壊されたか……。私が見た時は確かに光は自分のスマホを持ってた」

 美夜が光と対面したのは学校の昼休み終了から午後の授業の間。あの時、光は自分のスマホを使用していた。

「だけど自信なくなってきた。光はシルバーのスマホケースをつけていたの。蛍のスマホケースはお揃いの絵で、色はピンク。……もしかしたらあのスマホも、中身は蛍のスマホだった?」
『スマホケースを付け替えれば見た目の偽装はできる。けど、神田が学校で見せてもらったインスタは光のアカウントからだったんだろ?』
「そう。蛍の非公開のインスタを見る権利があるのは、たったひとりのフォロワーの光だけ。あれは光のアカウントからだった」

 学校で閲覧した蛍のインスタグラムのアカウントは、光のアカウントから接続されたものだ。光のインスタグラムのアカウントのフォロワーも蛍のアカウントのみ。
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