姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です
それからも、譲はいつも通りに顔を見せた。次第に叶奈と言葉を交わす機会も増えていく。
といっても料理の注文を受けたり運んだりするときだけだから、会話ともいえないような短さだ。
それだけなのに、叶奈が譲を意識し始めたと感じ取った麻子からは釘を刺されてしまった。
「お店のお客さんと、必要以上に仲よくならないでね」
やがてメルボルンへ旅立つ叶奈にとって、つかの間のときめきなのだ。
それに譲が来る時間に、いつも叶奈がいるわけでもない。
(譲さんと会えるのは短い期間だけだもの。この気持ち、大切にしたい)
母が自分の経験から忠告していたとは、叶奈には知るよしもなかった。
年の瀬が近づいて、播磨屋も慌ただしくなってきた。
北風が冷たく感じられる日の午後、四十代くらいの男性が祖父を訪ねて来た。
昼食時の客が途切れたところだったから、店の一番奥にあるテーブルにふたりは陣取って話し込んでいる。
たまたま店にいた叶奈が茶を運んだが、どうやら深刻な話らしく祖父は黙ったまま腕を組んでいた。
なんの話だろうと気になっていたところに、ふらりと譲がやってきた。