姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です
その理由は単純だ。ここは日本だし、相手にするのは生きている人間。
この土地で長年暮らしてきた人たちばかりで用心深いから、会ってもらう約束を取り付けるにも時間がかかる。
もし会えても、こちらの用意した文書を読んですらもらえない。
ここにいるスタッフは、現場のたたき上げといった譲より年上の人たちだ。
湯浅の名前は彼らから遠慮される原因にもなるし、年齢差もあるせいかうまく事が運ばない。
予定していた土地のほとんどは手に入っていたが、残っているのは難しいケースばかりだ。
用地交渉は難航すると聞いていたからある程度は覚悟していたが、想像以上に厳しいものだった。
地権者との交渉は、これまで譲が知らなかった世界といってもいいだろう。
連日の深夜に及ぶ交渉で、譲の神経はどんどん削られていく。
補償額への不満を訴えるもの、先祖伝来の土地を離れることに難色を示すもの、おまけにこの事業そのものを嫌うものもいる。
ましてや行政への不信感までこちらに向けられたら、たまったものではない。
泣かれたり怒鳴られたり、中には脅しのような言葉まであった。
個別に不満を聞きとって、補償額の説明を行うのは譲の立場なら人任せにもできる。
だが譲は、自分から交渉の場に立ち会うと決めたのだ。