姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です
タクシーが播磨屋に着くと、店の前に黒塗りの乗用車が止まっていた。
トラックや家庭的な国産車が多い店だが、たまに外車でやってくる人もいる。だが客のようには見えない。
運転席には、カチッとしたスーツ姿の男性が座っているからだ。
「珍しいイタリアの車だね」
先にタクシーを降りた叶奈が言うと、麻子の顔色がサッと青ざめた。
「どうして……」
麻子の言葉は途切れた。
叶奈は店の入り口に仁王立ちしている祖父に駆け寄った。
「おじいちゃん、なにかあったの?」
「遅いじゃないか」
祖父がイライラとしているのが伝わってきた。
「お迎えだよ。あの家から」
麻子がうなずいた。
あの家とは何のことかと叶奈が聞こうとしたら、黒塗りの車の運転席が開いて男性が降りてきた。
「お迎えにあがりました。麻子様、叶奈様」
「は?」
たしかに叶奈の名を呼ばれたはずだが、様付けなどされたことがないから自分のことだとは思えない。
逆に麻子はしっかりと応対している。
「田頭さん」
「お久しぶりでございます」
どうやらこの初老の男性は麻子とは顔見知りのようだ。
「さ、お乗りください」
あれよあれよという間に麻子と叶奈は後部座席に乗せられ、車は走り出した。