姉の代わりにお見合いしろ? 私に拒否権はありません。でも、あこがれの人には絶対に内緒です


(どうして叶奈だけ)

奈緒は、母とアイスを食べるなんてできない。奈緒にはあんなふうに、そばで笑ってくれる家族はいない。
母に手をつないでほしかった。食べ歩きだってしてみたかった。

あれほど会いたかったのに、奈緒の心には大きな穴がポッカリとあいてしまった。

横浜の家に帰ってからも、しばらくは自分の部屋でぼんやりと過ごした。
どうしても朝起きられなくなって、学校に行けなくなった。
突然だったから、祖父母や父は大慌てしていたっけ。
医者やカウンセラーに連れていかれたが、奈緒は口を閉ざした。母に会いに行ったことを誰にも知られたくなかったからだ。

学校に行けなくなった理由が「母の顔を見に行ったからだ」と言われたくない。
自分を生んでくれた人を悪く言われるのは辛いものだ。

中学生になるころには、なんとか学校に通えるようになった。高校にも進めた。

そんな奈緒に、琴子はいつも「あなたは大きくなったら、お見合いして結婚しましょうね」「私が立派なお相手を見つけてあげるから」と言う。
うんざりするほど、何度も何度も聞かされた。

(松尾の屋敷から離れたい)

都内の女子大に進学が決まったので、家族を説得してひとり暮らしを勝ち取った。

学生生活はそれなりに楽しかったけど、奈緒には夢中になれることはなにもない。
自分はなにが好きで、なにが嫌いなのかさっぱりわからなくなっていた。




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